鉄の戦争3

アラティア渡しの合戦
アラティア渡しAlatier Crossは比較的大人数の者がジストル島に渡ることのできる唯一の場所である。アラティア渡しは潮の流れる平地で、潮が引いたときには数マイル続く歩行可能な開けた地面となる。何箇所かはすべりやすく、貝類が棲んでいる磯や、砂浜のような海岸もある。ロクシル島に入る他の方法も少人数なら困難だが不可能ではない。この海の波に洗われる陸の線が戦場となった。

・アラティア渡しの最初の合戦(907年ごろ)
最初のアラティア渡し越えは預言者や、冒険者や狂人によって率いられていた。このばらばらで統率されていない集団はドラゴンパスじゅうから集まって、自分達を「志願軍Volunteer Army」(もしくは「オラシンOrathinの軍」)と呼んだ。命令というよりは衝動で活動し、憎むべき神知者の飛び領土を滅ぼすために、左腕諸島に集結したのである。

(アラティアの)陸の線は潮が退くと現れて、軍は進軍をおこなった。島は無防備のように見えた。そのため「志願軍」は勇み足で不注意であった。防備は冷酷かつ機械的で、「保安部隊」は島の侵略者達を一掃した。「志願軍」の生き残りはスキー島に逃走し、大部分は帰郷した。残りの者は最初の監視帥である「老人」ハランドスに統率される「同盟の軍」に参加した。

・最初の監視
初代の監視帥である「老人」ハランドスは「志願軍」の生き残りと、自分の配下の傭兵軍を再結集した。ハランドスの指揮下に、「同盟の軍」はジストル島の長い包囲を開始し、エスヴラール人に物資を供給し、援助をおこなうように強制した。

「大いなる機械の包囲」の叙事詩を聴くと、英雄的な「古の同盟の軍」が執念深い機械の大敵に対して厳重に包囲を行った十年の包囲戦を我々に明らかにする−絶え間なくロボットたちを出し抜いて島の地底にある機械の迷宮への一歩一歩を進めていたのである。この英雄叙事詩がこの戦争に参加した霊的な指導者達を信仰する者が訪れる場所である。

実際のところ、包囲戦の十年は叙事詩よりもはるかに偶然に基づいており、絶え間のないいがみ合いと一貫しない包囲が続いた。攻め手にとって幸運なことは、守り手の方が待機して襲ってくる者を倒すだけに満足しており、総力での攻撃には取り掛からなかったことであった。ジストル教団側からの数少ない攻撃はたいていの場合、成功であった。

「同盟の軍」にとって運がよいことに、オーランス人は惨めさと苦難を徳の高い人生の選択であると考えたのである。「同盟の軍」はしばしば辛うじてだが、苦難を乗り越えていった。

・アラティア渡しの第二の合戦
この合戦は「切り刻む者」ヴァランコルに統率された「新たなる同盟の軍」による「輝かしき夏の攻撃Brilliant Summer Attack」である。「新たなる同盟の軍」は首尾よくアラティアを越えて、自分たちの防衛の線を引き、「海岸」とダカールの都の両方で守備軍をうち負かした。しかし、攻撃軍は略奪を始め、守備軍の不意を突いた精力的な反撃の後、撤退した。

・アラティア渡しの第三の合戦
「誇り高き」アラはいくつかの成功した包囲戦と小競り合いの数年を経験したヴィンガ信者の女性であった。アラは「切り刻む者」ヴァランコルとセンハルマースを臆病だといって非難した。「同盟の軍」の指導者たちはアラの非難に刺激されて攻撃に移ることに同意した。

ジストル教団の守備は準備が整っていて、「第三のアラティア渡し越え」は血の海となった。多くの偉大な戦士たちと英雄たちが倒れたが、究極的にはアラと彼女の配下のヴィンガの女戦士たちのおかげでその日をしのぎ、軍はアラティアを越えて、島の略奪をおこなってから本土へと戻った。「アラの愚行」―ある者は「第三のアラティア渡し越え」と呼ぶ―はこの日の内に「同盟の軍」の半数である、五千人もの命を奪った。

・鋼の陥落の合戦Steelfall Battle
「同盟評議会」は最後の努力をおこなうことを決断した。神知者たちの何回かの襲撃により、「同盟評議会」は攻撃が準備されていることを知り、打撃を与えなければ相手は強くなるばかりであると悟ったのである。「評議会」はこの年、強力な魔術を準備するために、大いなる魔術的な努力をおこなった。

義理を負った熟練した弁士たちが、援助を求めるために「同盟評議会」の外の後援者たちを訪問した。

ドワーフ族は、「勘定台の」アラパンが千ものエルフ族が生み出した攻撃の盾を提供し、指揮官達にはいくつかの宝物を渡した。

人間からは「アンドロルフィン王の軍旅」が到来した−−ヒョルトランド全土からヘンドレイキ族の大規模な召集がおこなわれた。

ウズ族は必要なときには、秘密の軍それじたいが姿を現した。

「上の軍」はレンヴァルドに率いられ、攻撃をおこなった。多くの大いなる儀式と祭儀で力を与えられて恐るべき嵐を呼び起こした。魔術的なドワーフの盾を使って、潮の流れる平地(訳注:アラティアの渡しの一部?)にたどり着き、自分たちの攻撃の力で防御を破り、雷の攻撃に助けられつつ、第二の陣を作った。彼らは(訳注:この部分原文不明)あまりにも強力な魔術を持つ機械人間の軍勢を解き放ったので空気は震えた。

レンヴァルドは「嵐の激怒Stormwrath」を解き放った。軍は攻め手に襲い掛かり、魔道の呪文は枯れ果てた。傷ついた島は「機械のあるじたち」を露わにし、「機械のあるじたち」は自ら攻撃と防備をはじめた。彼らは地下奥深くの古代の魔術の源につながっており、源は「あるじたち」に力を与えるために使い果たされた。「嵐の激怒」は衰えた。

レンヴァルドは「嵐の猛威Stormrage」を解き放ち、腐食する風が機械を粉砕した。島全体がかき回され、巨大なエネルギーの雷光が島の地上の全体を覆った。「嵐の猛威」は退いた。島は動き、昇ってジストル自身が立ち上がった。「嵐の猛威」は力を失った。

最後にレンヴァルドは機械の神の身体である巨体のロボットと戦うため、偉大なるオーランス神自身を召喚した。レンヴァルドの力が強大なあまり、神自身が姿を現した。そして二柱の巨人の戦いがはじまった。しかしジストルはロボットに過ぎず、オーランスは偉大な神だった。

大いなる恐るべき不自然な嵐や、火を噴く雹や、稲妻が天から噴き出し、風が岩を倒し、肉を裂いた。オーランスがジストルを破壊した。機械は破壊され、体の部品が砲弾のかけらのように下の島に落ち、時には数マイルもの距離にわたって地面を覆った。これが「鋼の陥落」である。

「下の軍」も活発に動いており、暗闇の中の不可能なキトリの進入路を用いて都に入り込み、防御をくぐり抜けた。この活動は大部分ウズ族によってなされ、先頭が地上でおこなわれると同時に、地下のスイッチ(訳注:原文だとswatch)を壊していった。

ヘンドレイキ族やウズ族、その他の「同盟の軍」は島の内部に入り込み、残存の守備軍を打ち負かした。そして「刀鳴の都」の地下深くまでを襲撃した。

そして、どこからともなく、一万人の鉄ドワーフが廃墟を行進してきて、「同盟の軍」に

「全ての機械もしくは工業的な方法でつくられたすべてのものが含まれる、盗まれた財産を置いていく」
ように命じた。レンヴァルドはこの突然の不意打ちと裏切りに驚愕し、抗議した。「鉄の将軍」はレンヴァルドを捕らえるように命じたが、レンヴァルドは逃げた。「鉄の将軍」はレンヴァルドの力を奪うように命じたが、一時的にしかできなかった。ついには「鉄の将軍」はレンヴァルドの頭を撃った。

他の者も拒否すると殺された。そして恐るべき被害がウズ族とモスタリのあいだで生まれた。しかし大部分の者は単純に宝の多くを諦めたのである。

「一万の軍」はその後、「刀鳴の都」の地下深くに入り、島を封鎖し、島に恐るべき魔術の呪いをかけた。アラパンは彼らに同行して去った。

この出来事のほかの影響は「同盟の軍」がジストル教団の虜囚となっていた何柱かの神性を解放したことであった。

Excerpt from Greg Stafford's History of Heortling Peoples