コリマー部族:オルトッシ王と「ヴェンハールの子」アーグラス

サーターという人物は全く他の登場人物と毛色を異にしています。ひとつ、問題解決に暴力を用いなかったこと。ふたつ、ラーンステイの変成の魔術に巧みだったこと。みっつ、都市を造ったこと。

これらの手段を用いてサーターは争う諸部族をまとめ、テルモリ族との休戦にこぎつけました。彼は五つの都市を造り、それらを交易の拠点として、部族同士を王国としてつなぐくさびの役目を果たすようにしました。中央に予言のボールドホーム、北にジョンスタウン、東にスウェンズタウン、南にウィルムズカークです。

彼は西にもくさびとなる都市を造ろうとしましたが、彼の最初の意図とは異なることになりました。コリマー十一代の王、オルトッシがコリマーの領地に都市を造ることに反対したからです。オルトッシはサーターに忠実でしたが、このことに関しては譲りませんでした。


ある日サーターはオルトッシのもとを訪れて、コリマー族を助けてやろう、またここに都市を作ってやろうと言った。

オルトッシは拒否した。理由はこうである。「葡萄を育てるためには、ここは荒野でなければなりません。それに都市ができれば、私たちの葡萄酒を求めて愚か者が大勢ここにやってくるでしょう」

サーターは言った。「私はここに都市の評議会を作ろうと思っているのだ。お前と子孫はすぐに会の首長となり、何世紀も経って都市が成長したあとも首長であり続けることだろう」

「王よ、それは私の望みではありません。あなたの望みと計画は素晴らしいものですが、ここにはもっと素晴らしいものが既にありますので」

「お前がそうしなければ、王国は確実に弱まるであろう。そして七代のちには我々のみならず、子孫にも災悪が振りかかるであろう(注1)」

「時には古の神々のように、古いやり方を守ることも必要なのですよ、陛下。そして現在に賭けを打つだけでなく、遠い先のことを見通すことも必要なのです。」

こうしてオルトッシ王は都市の建設に反対し、その後サーターがやって来て、儀式を完了させるためにダックポイントに空の都市を作った。

(日本語版グローランサ年代記265-266ページ)
こうして五つの都が王国をまとめましたが、不完全な形でした。西のダックポイントは空の都市で、ダックたちもリスメルダー部族もダックポイントをあまり使わなかったからです。


さて、オルトッシ王の背景ですが、彼に焦点を当てると暗い、別の側面が見えてきます。コリマー部族の領土の南東部、「黒苺の丘陵Brambleberry Hills」(雷鳴の丘とクイヴィン山脈の間にある地域です)にカランドリ氏族の領土(トゥーラ)がありました。オルトッシはカランドリ氏族の出でした。

領土を接する雷鳴の丘にはジェンスタリ氏族が住んでいて、この二つの氏族はサーター王の時代強盛で、王を出していました。(サーターに魔術で暗殺者から救われたラストロン王はジェンスタリ氏族の出身です。)問題なのはジェンスタリ氏族がカランドリ氏族の「黒苺の丘陵」の肥沃な土地を欲しがっていたことでした。

ある日のこと、オルトッシ王は狩りをしていましたが、鹿の行方を見失ってしまいました。その時、オルトッシ王に話を持ちかけた者がいました。ジェンスタリ氏族のヴェンハールです。


その時、一行の一人、インタガーンの息子ヴェンハールが、ただの定命の鹿よりも素晴らしい獲物のいる場所に案内しましょうと言った。オルトッシはその冒険をやりたいと言った。同行者の中には王を思いとどまらせようとしたものもいたが、ヴェンハールは、「荒野を求める王にはうってつけのものです」と言った。そのためオルトッシは行かざるをえまいと感じた。

(日本語版グローランサ年代記266ページ)


ヴェンハールが案内したのは東のプラックスの国境地帯、「六人姉妹」の精霊の丘で、ヤズクブ、「蜂頭の姉妹」の丘でした。ヴェンハールが魔法の歌を歌うと丘の中腹の門が開き、オルトッシが夢で見ていた青い狼が出てきました。オルトッシと仲間たちは狼を追いました。

オルトッシ王は狩りから戻りませんでしたが、王の家族が彼を探しに行きました。オルトッシの息子や娘たちはどこからか数年ごとにカランドリ氏族の元に戻ってきて、金属、羊毛、革、木を父王が必要としていると言いました。

コリマーのほかの氏族は三年の王の不在の後、新しい王を要求しました。コリマーのほかの氏族が選んだのはジェンスタリ氏族、インタガーンの息子ヴェンハールでした。(注3)彼がコリマー十二代の王ヴェンハール2世です。

ヴェンハール2世の従兄弟、ハーランの息子フェダルコスはオルトッシたちの不在をいいことに、「黒苺の丘陵」に対して訴訟を起こしました。訴訟に対して返答がなかったので、力で略奪を行おうとしたのです。このときフェダルコスを殺したのが、革を取りに来ていたオルトッシの息子、オレンダルでした。

次の年、ジェンスタリ氏族の全員がフェダルコスの復讐をしにカランドリのトゥーラに行くと、カランドリ氏族の者はオルトッシの後を追って全員いなくなっていました。ジェンスタリ氏族は黒苺の丘を奪い、大変潤うようになったと言うことです。

しかし、ヴェンハール2世はその後、あまり幸福ではなかったようです。一族が次々に謎の敵によって皆殺しになっていったからです。後に「ヴェンハール(注4)の息子」アーグラスが自分の曽祖父たちについて語ったことによると、


「”赤のゴータンガー”は機会があるごとに、敵の氏族を襲い、常に数人を殺しました。敵は彼を幽霊と思いましたが、彼は幽霊でなく現実のものでした。(日本語版グローランサ年代記265ページ)」

「ダングマーは父親を殺した者から隠れて夜をさ迷いました。敵を皆殺しにしてやっと敵の氏族との戦いに終止符を打てたのです。(日本語版グローランサ年代記265ページ)」


はっきりとは書かれていませんが、こうしてジェンスタリ氏族は全滅し、「黒苺の丘」は17世紀には茨の生える無人の呪われた地になったということです。

注1:サーター王の予言の解釈としては、1602年のルナー来襲で、防衛拠点がルーンゲートでなく、このコリマーの都市であったら結果は違っていたのかもしれないし、またそもそも灰色熊峠のターカロールと羽馬の女王の死も起こらなかったのかもしれません。

しかし逆にオルトッシが荒野を選んだからこそ、アーグラスのひとり、「ヴェンハールの息子」は現れたとも解釈できるのです。(英雄戦争のとき、カランドリ氏族がどうなったかをレイカ女王に伝えたのは「ヴェンハールの息子」でした。)

注2:オルトッシたちがどこに向かったのかはわかりません。Glorantha Indexの非公式な説によると、封鎖されているパヴィスの大廃都に行ったということです。アーグラスの祖先であるゴーダンガーの話を読む限り、「当たり前の世界」からちょっと離れたところにいたようにも思えます。

注3:はっきりと陰謀があったと「年代記」には書かれていませんが、Glorantha Indexは完全に陰謀説を採用しています。王位を奪うために魔法の罠をしかけたということで。

注4:当然のことながら、アーグラスの父とヴェンハール2世は別人です。