トラートの赤き剣

トラートの赤き剣(Red Sword of Tolat)はStafford Library:Revealed MythologiesやMiddle Sea Empireに描かれている宝物です。おそらくグローランサの異文化間の衝突を描いている記事の中で一番複雑な話です。Guide to Gloranthaでもこの喪われた宝物についてのプロットが記載されています。

A.トラートは赤い惑星の戦神であり、青い月の息子アートマルの友でした。あるときトラートが敵(*1)に不意打ちされたとき、アートマルがトラートの命を救いました。トラートは感謝して自分の剣をアートマルに贈りました。

B.アートマルは下界の女性カソラに魅惑されて月の船で降臨しました。二人の子孫が嵐の時代に広大なアートマル帝国を築きました。当時ナーガン砂漠は青い炎の海と呼ばれたエフト海であり、アートマル人たちは大いなる船(*2)を操ってこの海を航行していました。アートマル帝国は隆盛を極め、素朴なアギモリ人は辺境に追いやられました。

C.敵(*3)と争うなかで、アートマル帝国は戦う手段を選ばず、結果堕落していきました。そしてアートマルは北方から来た嵐の神(*4)に殺され、堕落しきった帝国はパマールト神の炎の雨で滅亡し、灰燼となりました。アートマル人は自らの神を喪ったことで魂をも喪いました。しかし剣はその前に北方大陸に移っていました。

D.ザラニスタンジ族はコボランドラ(*5)の民であり、長い脚を持つローパーと呼ばれる獣に騎乗していました。青い月と戦神トラートを信仰していました。コボランドラの皇帝デュルポスはザラニスタンジの族長ゼメンダルンにトラートの剣を命を救ってもらった褒賞として与えました。

E.ザラニスタンジ族はその後、北の大陸に移住しました。この剣を用いてセクカウル王国(*6)をジェナーテラ南東部に建国しました。初代王デングバルはトラートの剣を大地に突き立て、そこにはトラートの大寺院が作られたのです。軍神トラートの神殿は海の神々から王国を守りました。

F.しかし時が立つにつれてセクカウルに東方の法士たちが入り(*7)、彼らは血生臭いトラートの信仰を嫌いました。愚かな法士ヘスレナブ(*8)は時のセクカウルの王テュルヴェノストにトラート信仰をやめるように進言し、王はそれに従いました。トラート信者の反乱が起こり、また海の神々はトラートの加護が王国から去ったことに気づきました。ショーグ海が洪水を起こし、王と愚かな法士たちは溺死しました。デングバル王のトラートの神殿はトラートが自分の剣の柄をつかみ、陸塊ごと神力で海上に引き上げた(*9)ので、無事でした。

G.その後、チューランプールの都(*10)が天上から墜落し、メリブの島には破壊的なアシュルタンの民が住むようになりました。島は呪われたものとテシュノス本土の民に見なされました。テシュノス本土には預言者チャルが現れて、ブルスサシャム王は彼の教えである火と輪廻転生と悟法を混淆する信仰を受け入れました。

H.歴史時代に入ると、中部海洋帝国がウェアタグ人の海上覇権を打倒し(*11)、ジェナーテラ南部を艦隊で征服しました。その頃、メリブの民はブラトスザラン王に率いられて、古のザラニスタンジの慣習に従っていました(*12)。彼らは太陽暦805年、トラートの剣を携えてスヴァガッド皇帝のスロントス軍と戦い、敗北したのです。この時西方人のオダナル卿がトラートの剣を獲得しました。彼はこの剣をメリブのトラートの寺院に戻すことで王権を得て、メリブを中心としたテシュノス沿岸部を中部海洋帝国の植民地(*13)としました。

I.その後、剣になにがあったのかは記録にありませんが、海の大閉鎖と、中部海洋帝国の騒乱の中で喪われたようです。剣を捜し求める者がテシュノスや、アートマル人の遺産を復活させようとする者たちから現れています。第三期半ばにはセレンティーンというテシュノス人がトラートの剣を探してゾーラ・フェル河流域に国を作りました(*14)。英雄戦争でも、ある英雄が剣を捜し求めることになります。彼が剣を見つけ出すと、それはザラニスタンジ族とアートマル人を物質界に呼び戻すことになるのです。

(*1)Revealed Mythologiesでは、天界でのトラートの敵の名はブレドジェグ(Bredjeg)になっていますが、これをウーマスと考えることも可能です。
(*2)現在のルナー帝国で使われているムーンボートはアートマル人の遺産かもしれません。
(*3)Revealed Mythologiesによると、ここでいう敵はおそらく神代のパマールテラ西部に植民地を持っていた邪悪なヴェイデル人であり、彼らと戦うには手段を選べなかったという話のようです。
(*4)Revealed Mythologiesによるとこの嵐の神の名前はBarakuですが、これをオーランスと考えることも可能です。
(*5)Coborandra。Troll GodsのAnnillaのカルトの記述によると、詩的な「星と海の間、硬い岩と優しい心の間の国」と描かれています。Peter Metcalfe氏の説だと、神代のフォンリットであり、パマールト神話でトリックスター・ボロンゴが邪悪の山バンダクを創造した土地セルヴッコであるとのことです。
(*6)海で分断される前のテシュノス、トロウジャン、メリブ全体の総称。
(*7)ヴィゼラの悟法の法士。ひとりがネンデュレン(オォルス・サーラーを調伏して「ネンデュレンの平和」を作った賢者)の弟子のヘスレナヴでした。
(*8)ヘスレナヴの愚かな行為はふたつあります。第一にオォルス・サーラーが弟弟子だったときに屈辱を与え、彼が解脱に失敗する原因を作ったこと。(彼に虫(イプ)というあだ名を与えたのはヘスレナヴでした。)第二に後述の理由でセクカウルの王国を滅ぼしたこと。彼も失敗だったことはわかっていたようで、未練を残した亡霊となり、ヴォルメインの賢者エンロノに救われました。
(*9)この陸塊がメリブ島です。
(*10)Churanpur。火の神カーカルと反神ヘレスプルが天界で戦ったときに墜落した天界の都市。墜落した場所はヴォルメインとテシュノスの間の海上でした。その住民は地上界の卑小な生活を恨み、周囲に破壊を撒き散らす存在だったようです。反神アヴァナプドゥルが夢の世界に追放されるとチューランプールの島は消え去りましたが、その民はメリブ島に移り住んで歴史時代にも存続しているとのことです。
(*11)タニアンの勝利の戦い。
(*12)どのような理由でショーグ海の洪水を生き延びて、スロントスでセシュネラ人と戦うことになったのかは不明です。Peter Metcalfe氏の説だと、洪水でいったんザラニスタンジ族は滅びたのですが、テシュノスの英雄ガックのヒスゴラントールのせいで、その慣習は復活したということのようです。
(*13)イィスト植民地Province of Eest。
(*14)Moon Design社のJeff Richard氏のブログでHistorical Atlas of Gloranthaを参照のこと。