暗黒と再生:ヴェロルティナの民

ヴェロルティナの民
ハーグの都(注1)に死んだ神にしたがう民がいた。死んだ神の名は「闇の顔」(注2)といい、記憶ある限りの始まりから民はこの神、「闇の顔」を信仰し、名誉を与えていた。「闇の顔」が彼らから目を背け、自らの秘密の火を他の民や国を暖めるのに用いても、彼らは決してこの神の側を離れなかった。

ある日のこと、民は「均衡をもたらす者」と呼ばれていた女神ベサーナ(注3)の訪問を受けた。ベサーナは彼らを哀れに思い、他の多くの者に話したのと同じように話した。しかしこれらの民は教えに耳を傾けることのできた最初の民か、最初に聞くことのできた民だったのである。

「あなた方はここに留まり、古の死んだ約束のために悲惨に苦しんでいる。」女神は言った。

「あなた方は先祖がした約束の犠牲になっているが、このままでいる必要はない。あなた方は束縛から身を解き放ち、新たな神を探すことができるのです。」

女神の言葉は民を驚かせた。彼らはもちろん多くの神々を知っていたが、新しい神を信仰することは考えたこともなかったのである。

「どうやったらそのようなことができるのですか?」この民は尋ねた。

「私たちの子供たちは死んでいきます。この古の呪いから解放されるためなら、私たちはどんなことでもするでしょう。」

神性との絆を断つDivine Severance
ベサーナは彼らになにをすれば良いか教えた。最初に、この民は広大な儀式の場を足で踏み固めた。神聖な大麦と、三種類のその他の穀物を使って大きな護りの輪を描いた。それぞれ異なる毛色の四匹の野ウサギを狩り、生贄に捧げた。その後聖なる雄牛と子羊の血を使って床の半分を染めた。その後、彼らはベサーナに対して祈願し、輪の中にくるくる回りながら入って笑いながら倒れこんだ。

彼らは自分たちの中心に星をひとつ呼び込み、飢餓の妖魔をひとつの西洋梨のなかに封じ、自分たちのひとりを死んだ神に対する使者として選び出した。使者に選ばれた者はエスダクス(注4)と呼ばれ、最上の衣装を着て、銀の冠をかぶった。彼は自分で望んで選ばれた者であり、自分の祖先の神を裏切るよりは、死んで幸福に祖先の神の元に行くのである。

その後、民の全員が背を向けて、古の神の司祭たちがエスダクスを祖先の神の元に送るのである。その後全員が顔を洗い、自分の名前を変えて、祝宴の広間へと向かうのである。普通の民が出て行くと、司祭たちは自分たちの神の全ての祭器を破壊し、それらの全てが元に戻らないことを見て、はじめて絶縁がうまくいったことを確認するのである。(注5)

この方法で、この民は自分たちの神との接触を全て断つことができた。その後男たちは清浄な水で沐浴した。女たちは聖なる炎の上を跳び越えた。そうすることで彼らは新しく、清浄になったのである。

この民は「論理の民」や「不完全なる者」(注6)の過ちに陥るよりは良い生き方を知っていた。そうすることでこの民はよりましな神に忠誠と信仰を捧げることができたのであり、この[新たな]神はケト・テュロス(注7)と呼ばれた。彼らはバロヴィウスの都[オローニン川西岸都市]に向かい、以前よりは幸福にこの都市で暮らすようになった。

ヴェロルティナの教え
しかし、ある日のこと、悪夢が生まれた。ケト・テュロスが自らに捧げた祈りと生贄に答えを返さなかったのである。この事件は全ての者にとって恐ろしい衝撃であった。なぜなら[「闇の顔」のような弱い神でなく]大いなる神々のひとりが答えを返さないことはいまだかつてなかったからである。全ての者が絶望した。自分達が破滅に向かっているように思えたからである。

ヴェロルティナと呼ばれる女性の哲人は都の壁の外に住んでいたが、完全な市民であった偉大な女詩人だった。彼女は評議の場に進み出て、自分の方法について提案した。ヴェロルティナは言った。

「私たちに罪はありません。私たちにはこの災害と不条理に責任はありません。私たちは慎ましい小さな民であり、不老不死の者達に破壊された我々の世界で生き延びるために懸命に働いてきました。私たちは人間ですが、知性を持っているために意識を保ち、より偉大なる時代の記憶を持っています。しかし私たちはこの世界で非力でもあります。」

「私たちは秩序の生き物であり、無秩序を生き延びるために「秩序」の中で生きています。私たちは魚が水の中でしか生きられないのと同じように、「秩序」を維持しなければなりません。大いなる神々はこの秩序を守るのに失敗し、死にました。私たちは生きています。」

「私たちは「秩序」を維持しなければなりません。私たちは秩序を維持することを古代と同じように、敬虔で誠実な生活の中で行わなければなりません。そうすることで、私たちの「宇宙の正義」とのつながりが保たれるからです。」

この哲学は「ヴェロルティナの教え」(注8)と呼ばれた。民はこの教えのもとに生きることに同意した。ヴェロルティナはその後自分の計画について提案し、民はこの計画にも従った。全ての敬虔な者はこの教えを助けるために留まった。

神の審理の儀式Rite of Divine Inquiry
ヴェロルティナは、「神を調べなければなりません」と言った。

誤りなく、古代の儀式を行い、失敗してきた大いなる儀式を再演しなければならない。そうすることにより神々に通知を行い、彼らの注意を取り戻すことになる。我々はなにが正しいことなのか神々に示す必要がある。ヴェロルティナの民はこの儀式を「神の審理の儀式」と呼んだ。

全ての儀式と同じく、私たちは神々に懇願し、自分達がなにを求めているか神々に伝え、私たちを助けるように求めなければならない。

この儀式は我々の義務である。もし我々が敬虔で、神々に対して正直であるならば、私たちは真実の下に神々とつながることができるからである。そうすることで彼らは我々の行為に対する過ちを正し、正義が再び優越することになる。

贖罪の儀式Rite of Atonement
もし我々が善良であるなら、そして神々が我々の要求を耳にして、なお応えることがないのならば、悪い状況は続くことになる。もしそうならば、我々の世界にある悪は我々人間の過ちが原因であると仮定できる。我々は卑小で脆く、簡単に過ちを犯すからである。

過ちを犯したからには、我々人間は最大の生贄を捧げることで、我々の誠実さを証明し、許しを求めることで、神々を宥めなければならない。ヴェロルティナの民はこの儀式を「贖罪の儀式」と呼んだ。

もし贖罪が適切に行われるならば、神々が介入し、我々にとっての悪を正してくれるであろう。

告知の儀式Rite of Notification
もし贖罪の儀式を我々がふさわしく執行し、それでも悪い状態が続くならば、そして我々が敬虔な生活を続けているが、なお我々の贖罪の犠牲の山(注9)が状態を改善しないのならば、私たちは次の段階の証しを立てなければならない状態になる。この時点で、我々の悪を起こしている原因が我々のとがではなく、神々に由来するということを悟る。我々の潔白は証明されている。過ちは我々にあるのではない。

この時点で、私たちは正義を保つため、「エスダクスの儀式」を経て、神を捨てなければならない。ヴェロルティナの民はこの儀式を「告知の儀式」と呼んだ。この儀式で私たちは神との繋がりを断つことができる。

もし我々が公正で、私たちの生活が神々に対して正直であるならば、そして我々がこの儀式を正しく執り行うならば、神々は絶縁に対して危害を加える力を持たない。

[つづく]

注1:Hagu、もはや当たり前の世界には存在しない場所。しかし神界からはいまだに到達できる。
注2:Darkface、すでに忘れ去られた記憶のみの存在
注3:BeThaNa、カルマニア人はハーグの民を騙したトリックスターの化身であると考えている。ヴァラーレは赤の女神の化身と見なす。
注4:Esdakus
注5:非常に葬礼と似た儀式。もし対象の神がまだ生気を持っているのなら、少なくともひとつの祭器は修復されるはずである。
注6:神々のひとつ目のあやまちの神話を参照。
注7:KetTuros、「都の力の神」?
注8:Velortinan Principle、教えの要約は「人間はこの世界に責任がある、たとえ神々がそうでなくとも。」
注9:hecatomb、ギリシアでいう「牛百頭の生贄」

Excerpt from Greg Stafford's Entekosiad