ヘンドレイキの地への旅1

ヘンドレイキの地への旅
下記はHistory of the Heortling Peoplesの62ページから65ページに載っている記事の翻訳です。翻訳の間違いの責任はzebにあります。

下記の記事は、925年ごろ第二期の神知者(スロントス大公国)のスパイがヘンドレイキの国を訪れたときの貴重な記録です。当時すでにジストル戦争は終結し、神知者の同地での大きな拠点であったロクシルの都は917年、「鋼の陥落の戦いSteelfall Battle」で(古の伝統主義者団とEWFの手で)陥落していました。神知者側の意図としては、この情報の少ない閉鎖的な地域に間諜を送り込み、情報収集することを意図していたようです。


もっとも偉大にして強力なる閣下、大公爵にしてイレリン海の主、光輝の都の君主にして青銅艦隊の提督たるサルノルケル様。

「三王の教団」に所属するジャドノールのヘレメルが、つつましき挨拶とともに、ご相談と義務にお応えするため、ささやかながら、忠実なるこの報告を送らせて頂きます。

私は海と陸の皇帝、ダロス帝の治世の5年目にノチェットを出発し、エスヴラール人の都市であるレスコス市に向かいました。私の旅の仲間はヘロラルのハワリス魔道士で、私と同じ教団の第七位であり、尊重すべき随行員でありました。

ご依頼どおり、野蛮なヘンドレイキ人どもの国における私の旅と、彼らの異教徒の王の元での忍耐の日々についての説明を記載いたします。そして文中に彼らのもとでの滞在の間に集めた文献を含めました。私は彼らが語ったこと全てを理解していると主張するつもりはございません。あなた様の尊敬すべき宮廷の学者たちに解釈はお任せいたします。

レスコス市はみすぼらしいエスヴラール人の定住地でありまして、コラリンソール湾に面しております。エスヴラール人は目立った業績としてはジストル教団を裏切っただけであり、ヘンドレイキ人を恐れるあまり、「野蛮なる高原Savage Plateau」の崖の下にある砂丘や沼沢地に住んでいます。

ダンシャブラス卿がスヴァガッド皇帝の治世にレスコス市を創始しました。ダンシャブラス卿の建てた砦は今でもあり、ジストレラ陥落の後にヘンドレイキ人がエスヴラール人を駆逐できなかった唯一の理由であります。

閣下がご存知のとおり、エスヴラール人はカチャスト派の異端(訳注1)に陥ったアエオル派の背教者どもであります。彼らは新マルコンウォルの民でありながら、あまりにも罪深かったため、マルキオンの「携挙Rapture」で「慰め」に到達できなかった者どもの子孫であります。しかし無謀にもマルキオンが自分達を見捨てたと主張しております。彼らはかつて愚かな無神論者でありました。

今では魔神ウォーラスをマーカンの顕現として崇敬し、マルキオンがこの異教の神を、自分たちの始祖であるアエオルの業績によって聖別したとすら主張する、偶像崇拝者とたいして違わない者どもであります。気まぐれで、信念や強い信仰を持つことができない民なのです。しかし、(ソマーウォルのフェレマルのような)愚かな学者の一部が根拠もなしに主張するように、ザバンダーン派(訳注2)のように異教の神に血の生贄を捧げることはありません。彼らはそうすることを正当にも、おぞましい行為だと考えています。エスヴラール人は自分たちのタラール階級に支配され、ヘンドレイキ人に貢納を行っておりますが、ヘンドレイキ人の法律には従いません。

レスコス市にはコラリンソール湾の身体に色を塗る漁師の民も住んでいます。ー彼らは素朴で愚鈍な精神しか持たず、なんであれ近くにいる領主に対して奉仕を行っております。

デュレンガルド市Durengard
デュレンガルドはウクセラーUxelerの入江の口にある定住地であります。流れの速いウクセラー川が海に流れ込む河口のすぐ近くです。したがって海を航行する船が停泊できる最後の地点であります。この地は、ヘンドレイキの王に臣従する蛮族の部族が市場を開いてきた場所です。全ての公共の活動ー交易、法の執行、異教の神に対する獣の生贄に至るまでーがこの定住地の中央広場で行われます。

広場を取り巻いているのは、住民の住むあまり出来の良くない木造の住宅です。丈の低い石の壁がこの都市を取り巻いております。粗野な防御が施されていますが、この定住地は何度も焼き討ちをかけられました。ー一番最近は十二年前、ウクセラー川を漕ぎ上ってきたジストル教団の火を吐くタートル・ガレーに焼かれたときであります。

ヘンドレイキ人と同じく、デュレンガルドの民は無秩序な民であり、絶え間なく口論し、喧嘩しております。彼らに対する支配は貧しいものです。[我々マルキオン教徒のように]生まれながらにして統治するため訓練を受けた者に支配されずに、自分達を支配する判事たちを選ぶからです。彼らは皆裁判の日に、祭りの日であるかのように集まります。法廷での口論が大いなる関心の的であり、娯楽だからです。

彼らは防壁の中に小規模のアエオル派の居住区を容認していて、彼らに判事を持つことを許しています。しかしこのいかがわしい特権のために、いやらしい額の税が課されているのです。


ウクセラー川Uxeler River
ウクセラー川は巨大な曲がりくねった山脈から流れ出します。この山脈は年中厚い氷をかぶっています。この山脈はヘンドレイキ人から「嵐歩みの山脈Stormwalk」と呼ばれていますが、彼らの乱暴な嵐の神であるウロックスの館であります。ウロックスは「鋤の男Ploughman」と呼ばれるウロックスよりは分別のある神に抑えられています。翼のある牛が山腹で草を食んでいますが、神聖と土着の民にみなされており、土着民は信仰を捧げ、穀物を捧げています。

ヘンドレイキ人は巨人族と神々の戦いがこの地で行われたという伝説について話し、「嵐歩みの山脈」では獣の肉の供物が稲妻とハリケーンと雷鳴に捧げられます。デュレンガルドにウクセラー川を渡す石の橋がありますーこの橋は山賊の一団が支配していて、川の荒れ狂う水の渡しに高額の交通税を課しています。

ヘンドレイキランドHendrikiland
ヘンドレイキランドは北はイリルヴェルヴォール(訳注3)、南はデュレンガルドの間の地域です。三つの地域にさらに分けられます。高地の平坦な「野蛮なる森Savage Forest」、ヴォルサクシランドの峡谷地帯、セン・センレネンの国です。この地の空は絶え間なく雨や雲でさえぎられ、特にセン・センレネンの丘陵や「野蛮なる森」にある丘陵地では夏は暑く、冬は寒冷です。

野蛮なる森Savage Forest
「野蛮なる森」は高原であり、暗い森に包まれています。カシや、シナノキ、ヒッコリー、シデの木に覆われているのです。この森では鳥や獣の両方で狩りの獲物が豊富です。ヘンドレイキ人はこの森で狩りをします。−強盗行為以外に、彼らが狩りほど好む活動はありません。彼らの飼っているインキン猫と呼ばれる大きい猫に助けられて、鹿(特に赤い雄シカが好まれます)や、熊やイノシシや野ウサギの狩りをするのです。

彼らは白い鹿は狩りません。彼らは白いシカを神聖とみなして信仰し、自分たちの祖先と見なしているからです。あなた様の心を喜ばせるため、この獣の皮二枚をお送りいたします。ひとつの皮には頭と、めずらしいこの種特有の湾曲した角がついております。

「野蛮なる森」には多くの秘密の道があって、多くの居住地や、ヘンドレイキ人の神殿へと道をたどったり、案内したりできるのはヘンドレイキ人だけです。「野蛮なる森」のヘンドレイキ人は生活を狩猟と強盗で行っています。森を旅している間に、ハワリスと私はヘンドレイキ人の一団に強盗に遭いました。

多くの小さな集落や、牧草地が「野蛮なる森」を開拓してできています。それぞれの小さな集落にはヘンドレイキ人の信ずる異教の神の社があります。

その種の社のひとつがニーダムのアーナールダの「寺院」です。この寺院は巨大な花崗岩の一枚岩以外の何ものでもなく、巨石の上で女たちが儀式的な舞踏を行い、自分たちの異教の女神に獣の生贄を捧げるのです。聖所の近くには「自由の水」と呼ばれる細い流れが流れています。女祭たちはこの流れを浄化に用い、生贄の儀式に秘密として用いるのです。ヘンドレイキの王の妃がこの場の主席女祭であり、迷信深い異教徒どもは彼女をあたかも女神自身であるかのように崇拝しております。

春の間、ハワリスと私はニーダムにおけるヘンドレイキ人の儀式を観察することを許されましたが、異教の神々を冒涜するかもしれない音を立てることや、身振りをすることは厳しく禁じられました。主席女祭は村にある大きな寺院からニーダムへと、牝牛の引くチャリオットに乗って、彼女の通った後から歌い踊る女たちを連れて旅するのです。男たちは後から付いていき、牛やブタや家禽を連れて行進します。私はここに男たちの歌の一部を記録しております。
豊かなる髪のアーナールダ、母にして女魔術師の歌を歌おう。
神々の女王たるアーナールダ。全ての者を美しさで圧倒する。
雷鳴轟くオーランスの妃、全ての神々が崇め奉る。
オーランスおん自ら、雷鳴のうちに喜びを満たす。

女たちはニーダムの巨石の上に集まり、男たちは外側に留まって見守ります。ヘンドレイキ人の男たちの中で一番獰猛な者たちが見張り番に任命されます。彼らは抜き身の武器を構え、二本の赤い羽根を飾った兜をかぶっています。女たちを視認するのは難しかったですが、私は女たちが色豊かに着飾り、多くの女が金の装身具を身につけていたことは言えます。なん人かは風変わりな仮面をつけていました。中心で背の高い木製の椅子に座っているのは主席女祭で、ビールやワイン、花や果物を女たちに贈り物として捧げられています。男たちは奇妙な詠唱をおこなっています。

女祭たちは砕いた穀物を獣たちにばらまいて、その後獣たちを屠ります。全ての女たちが大いなる舞踏を行い、男たちは合唱します。ハワリスは三体の神が踊りの場に入っていくのを見ましたが、私は見ませんでした。奇妙な天候のもと私の顔に吹きつける風で、混乱したからです。しかしこの風は踊り手たちを煩わせてはいないようでした。儀式はニーダムの巨石の上で行われる大きな祝宴で締めくくられました。ハワリスと私は不浄な食べ物を食べることを断りましたが。

サイフォン川Syphon River
サイフォン川はまことに特筆すべき川で、「盗賊の森」の中を流れています。川の流れはまったく注目すべき光景で、川は迷信深いヘンドレイキ人どもを非常に悩ませるものです。

ヘンドレイキ人が言うには、全ての川はかつて上流に向かって流れていました。しかし全ての世界の水のうち、サイフォン川のみがかつて海の神マガスタに従うことを拒否し、マガスタはこの川がコラリンソール湾から逆向きに、上流に向かって流れるように呪いをかけたのだということです。

この川はヘンドレイキ人の言う邪悪な谷に流れ込み、彼らが言うところの地界に通ずる穴に流れ入るとのことです。この谷は、さらなる究明を要しますが、石でできた生き物どもとカージョールクの眷属が住み着いていて、この二種族は永遠に戦い続けているとのことです。

気が狂った戦士たちがこの谷に向かう地域を警護していて、宗教的な熱狂に取りつかれているときは暴力的な殺人が罰せられることなしに許されております。サイフォンは海のように塩水で、その水は汚染されています。

しかし、この川は鳥や魚は豊富で、バックフォードの定住地では、ヘンドレイキ人どもは川の水から塩を採取するため、塩の池を持っています。

ヴォルサクシの国Volsaxiland
エンギジ川とマルジール川の間の土地はヴォルサクシ族の肥沃な谷です。この民は頑固で高慢な農奴の民で、大麦を収穫し、乳牛を育てております。多くの要塞化された居留地がヴォルサクシの国にはあります。「ヴィンガの渡しVingaford」から、ヘンドレイキ人はエンギジ川を遡ってジスティール市に向かう商人に関税を掛けています。(訳注4)青銅の骨がしばしばこの地では発見されますー「神々の戦い」で死んだ彼らの神々の多くの残骸でしょう。ハワリスはマルキオンのしもべたちがこれら魔神どもを殺したという説に自信があります。

この地には多くの異教の社や、聖地や、聖なる岩や、聖なる泉があります。これらの特筆すべき事物の中には聖なるオーランスの「独り岩」が含まれています。

オーランスのために、冬場はここで祝宴が催されます。祝宴では、牛の群れから取ったグリース(牛の脂)を塗りたくった男どもが、(神に指示されたならどの牛であれ)一頭の雄牛を岩のところまで運びます。そこで彼らはこの雄牛の背骨を折り、喉を裂いて、黒い血を皿の中に注ぎ入れます。そして血を集まった群衆や、聖別したいと望む宝物の山に撒き散らすのです。これがこやつらの供犠の方法であります。

ヴォルサクシの国でもっとも特筆すべきは、デレンセヴDerensev、異教の神「刻印をおこなう者Imprinting One」の聖地であります。この神の司祭たちは哲学者でありますーノチェットの連中と似ています。生涯を自然界を統べる神聖な法則についての議論に費やすのです。すべてのヘンドレイキ人の中で彼らだけが文字を読めます。そしてケロフィネラ人と同じ不思議な文字を使って書くのです。彼らの教養にもかかわらず、この知識でなんら有用なことはおこないません。家畜や穀物に対する口論を収めようとするヘンドレイキ人の判事たちに助言することで、せっかくの学問を浪費しているのです。

[つづく]

訳注1:Kachasti、神代、ジェナーテラに住み着いた論理の六の民の一つ、多くが生存のため異教信仰に走り、転じて異教の神々を認める異端主義の意味となった
訳注2:Zabandanites、神知者の汎神論から生まれた異端のひとつ、血の供犠に価値を認める
訳注3:Ililbervor。ホワイトウォールの古名
訳注4:当時エンギジ(クリークストリームリバー)の流れは現代と異なっており、影の高原の東で海に流れ込んでいた

Excerpt from History of Heortling Peoples