ヘンドレイキの地への旅2

セン・センレネンSen Senrenen
ヘンドレイキ人の古来の故郷がセン・センレネンです。この地から「自由人」ヘンドリックが出ました。この地は起伏の激しい岩山や峡谷の国であります。住んでいるのは大部分牧人や、彼らの家畜である牛や羊です。セン・センレネンのヘンドレイキ人は獰猛な盗賊や魔術師であり、ヘンドレイキ人の王たちの保護なしに外国人がこの国に入るのはまれであるため、我々はこの地には行きませんでした。しかし、ヘンドレイキ人はこの国について話すのに積極的でした。

ヘンドレイキ人はこの地をオーランスにとって神聖な国としております。彼らはオーランスが若い頃この地をしばしば旅したのだと言っています。この地にはヘンドレイキの王たちの神聖な墓所を含む、無数のヘンドレイキ人の神々や英雄達の聖地があります。それぞれの聖地が年の特定の日に犠牲を捧げ、儀式をおこなう場所になっています。ヘンドレイキ人は家畜や、食物や、ビールや、宝物を神々に捧げ、その供物を大規模な祝宴で費やすのです。

イリルヴェルヴォールの近くで、ヘンドレイキ人は王たちを火葬し、火葬の場に石の碑を建てます。ヘンドレイキの民は祝福を得るため、王たちに食物やビールの供物を捧げます。ヘンドレイキ人は(彼らのいうところの)三人の聖なるラーンステイの王たちを数えています。彼らの名はヘンドリック、セレルマルとアヴェントゥスです。これらの三人の王には固定された記念碑があるわけではありませんが、ラーンステイ団の魔術師達が彼らの遺灰を守護しています。

ヘンドレイキ人は元は邪悪なカージョールクの眷属の支配下にあり、このカージョールクの眷属を慰撫するため、彼らが神であるかのように、生贄を捧げる必要がありました。ヘンドレイキの民が言うには、この供犠は、自分たちの祖先たちがおこなった、「大いなる盟約」の一部であり、「大暗黒」を生き延びるために怪物たちの王、アルスカン・ケコ(訳注5)と祖先が盟約をおこなった結果であるとのことです。

しかし、古のある時代に、このカージョールクの眷属が自分たちの要求する貢納を増やそうとしました。その時、ヘンドレイキ人の英雄、「トロウル殺しの」ハルドロスがアルスカン・ケコをうち負かして、貢納を取り止めさせたことがあったということです。それ以来、影のものどもはセン・センレネンの東にある暗い森に封じ込められているとのことです。

イリルヴェルヴォールIlilbervor
私はこれからイリルヴェルヴォール、ヘンドレイキの王たちの聖なる砦を描写いたします。ヘンドレイキ人によると、イリルヴェルヴォールの山頂で、彼らの古の神であるヴィングコットが「怒れる」ウォルチャWorchaと呼ばれる怪物と戦って敗北しましたが、最後のひと息とともにオーランスの招来を祈願し、オーランスが到来して海の魔神たちを倒したということです。

イリルヴェルヴォールは聖なる山であると同時に砦であり、セン・センレネンにある「北の谷」にそびえる石灰岩の硬い岩山の上に建っています。非常に深い断崖を取り巻く形になっていて、その底は目では捉えられません。この岩は急勾配でけわしく、どんな獣も登ることはできません。登り道は狭く曲がりくねっていますが、それは岩の突き出た絶壁で寸断されているからです。道はしばしばもとの場所に戻ってきます。登り道のどちらの側面も、非常に深い裂け目や絶壁で、もし落ちたらと、皆のものの大胆な気持ちを静めるのに十分なだけの、恐れを心に吹き込みました。(訳注6)

ひとりの男がこの道を登って、30ファーロング(訳注7)進むと、丘の頂上に着きます。この丘の頂上に、ヒョルト人の王「造り手Maker」ジャンJanは「第五の御業」の時代に砦を建てたのです。数世代前に忘れられた王たちが丘の頂点の周囲を取り巻く壁を造りましたー7ファーロングの長さの輝く白い石でできていて、高さは12キュービット(長い方の)、幅は8キュービットです。壁の中には穀物倉、番兵部屋、職工場、彼らの邪悪な異教の神々の数多い社があります。

イリルヴェルヴォールの玉座の間は、部族の指導者達がかっさいして自分達の王を選び、ヘンドレイキ族の神聖なレガリア(宝器)を授与するところです。レガリアは古代の神々から彼らに与えられた剣と杖と宝冠から成立しています。王が長いことイリルヴェルヴォールに留まることは稀です。ヘンドレイキの王たちは時間の大部分を部族の土地を回ることで過ごし、ふつう嵐の季にイリルヴェルヴォールに戻って部族の守護神たちに生贄を捧げ、彼らのけがれた異教の新年の儀式の主宰をおこなうからです。

彼らにとってもっとも恥辱となったのは邪悪なドラゴンたちによる敗北です。我らの偉大にして栄光に満ちた、征服されえないスヴァラック皇帝の治世に、ヘンドレイキ族がドラゴンによって敗北を喫した後(訳注8)、ヘンドレイキ人はイリルヴェルヴォールを放棄し、「ワームの友Wyrmfriend」と彼らが呼ぶ敵に渡しました。イリルヴェルヴォールの大規模な防壁を増築したのは「ワームの友」たちです。1世紀近く、ヘンドレイキ族は隠れた王たちであり、臆病に隠れることで生き延びました。

年月が過ぎた後、「予言者Soothsayer」オルヴァマースと呼ばれる王と、彼の配下のラーンステイ団の魔術師がイリルヴェルヴォールに忍び込みました。我らの賢く慈悲深きトロソス皇帝の治世に起こったことです。この「竜殺しDragonbreaker」オルヴァマースは古代のレガリアで戴冠したヘンドレイキ族の王であり、部族の守護神たちに供犠をおこなったのです。このことで「竜殺し」は彼らの神々のひとりになり、今では「竜殺し」の司祭たちがイリルヴェルヴォールを「ワームの友」たちから守っています。

ヘンドレイキ人について
これからヘンドレイキ人について私たちは話すわけですが、この主題について私はたくさんあなた様に話すことがあります。彼らは野蛮な刺青をした農奴や牧夫の種族です。ヘンドレイキ人の男はうぬぼれが強く、乱暴で、予測しがたい者達です。女たちはずるく、無慈悲で、打算的です。彼らの価値観で最高のものは友情にあり、ひとりの男の価値はその男の友人の数で決まります。これほど娯楽やもてなしにひどく耽溺し、こだわる民は他にありません。

強盗と狩猟と、耕作が彼らの主な職業です。彼らの財産の概念は牛や銀にありーすべての盗賊と同じく、土地や住居よりも持ち運びできる富に価値をおきます。彼らは奴隷を所有せず、信じがたいことに名声ある人物が、畑を耕したり、牛か羊の面倒を見ている場面を名誉あるものと考えているのです。彼らは粗末な村に暮らし、家畜と共生しています。彼らは石や煉瓦でできた恒久的な建物を持ちません。彼らのベッドはわらや獣の皮が敷かれていて、主食にパンや肉を食べます。

ヘンドレイキ人は喧嘩早く、気難しい民で、暴力的な宿恨でよく知られています。親族の友情だけでなく親族のもつ恨みも受け入れることは彼らにとって義務です。彼らの女たちはいかなる侮辱や攻撃に対しても暴力的に対応するよう男たちをそそのかしますー彼らの野蛮な「名誉」から要求されるように殺しを行なおうとしない男には、この女たちは好意を向けようとしません。

無節操で気まぐれな盗賊にふさわしく、彼らの抗争は執念深いものではありません。人殺しすら、それなりの数の牛や羊の支払いによって贖われます。そして家族ぐるみが弁済を受け入れるのです。

ヘンドレイキ人は風、嵐、雷鳴の神オーランスを異教の神々の中でももっとも偉大な神として崇めています。イリルヴェルヴォールではヘンドレイキ人の司祭たちが彼の名誉のため、牛や羊を屠っている間に下記の歌をオーランスに歌いかけます。

我らオーランスの歌を歌おう。神々の中の王よ。
もっとも偉大なる神、万物の君主、雷鳴轟く者、雷持つ者、よろずの父、
放浪者、竜殺し、正義もたらす者よ!
恵み深くあれ、自由に変転するウーマスの息子よ、もっとも卓越した偉大なる者よ!


彼ら迷信深い土着民たちはオーランスの寺院は建てずに、丘の頂上やこの神にまつわるほかの場所でオーランスを礼拝します。彼らが言うには、オーランスが家を持たず、放浪する者であるからとのことです。

ヘンドレイキ族の王権
ヘンドレイキ人は自分たちの王を彼らの部族の中心地であるイリルヴェルヴォールの儀式で、貴族たちから選び出します。ヘンドレイキ人は反逆的で、不服従の民であり、結果として、彼らの王は命令によってではなく、むしろ模範となることで行動しなければなりません。もし王が精力的で、目立つ存在で、戦いで先頭に立って戦うならばー王が指揮することになりますーしかしそれは単に王が賞賛すべき存在だからです。ふさわしい政府という概念はヘンドレイキ人の中にはまったくありません。彼らは王が同時にひとりでタラーリ、ザブーリ、ホーラリ、ドローマリであることを期待するのです。

今日ではヘンドレイキの王国は多くの部族で成立しています。ヘンドリックの氏族の直系の者たちが頭となり、他の者はしたがいます。ヘンドレイキ人は五つの異邦人の部族を支配しています。(エスヴラール人、エスロヴーリ人(訳注9)、ハーラントHurlant人(訳注10)、デューレヴ人(訳注11)。ぺラスク人(訳注12)です。)

彼らは絶え間なく争いごとと同意しない事項について口論しています。小さな揉め事はしばしば殺人で、もしくは判事の協議や決定によって解決されます。より重要な事項については、決定は部族全体に委ねられます。彼らの神々に定められた日に集まるのです。彼らは武装して座り、王の発言を聴きます。王は命令する権力があるというよりは、説得する影響力があるというべきだからです。もし王の意見が不評なら、彼らは王の言葉を脅迫的なざわめき声で拒否します。もし賛成するなら、彼らは槍を振りかざし、武器で賛意を表現するのです。

ヘンドレイキ人は戦場では臆病きわまりなく、不意打ちでだけ攻撃します。しばしばある敵が感知する、ヘンドレイキ人の軍が近くにいる兆候は、ヘンドレイキ人の角笛と、敵の陣に突撃する時の戦の歌です。もし攻撃がうまくいかなければ、ヘンドレイキ人はパニックに陥り、後退して、森か丘へと逃げ込みます。再び攻撃するのは彼らが選ぶ時と場所においてだけです。

ヘンドレイキ人は略奪と強盗で暮らしています。彼らの若者は暇な時間を近所から家畜を盗むことで費やします。ヘンドレイキ人の判事が王に抗議するのはこの種の襲撃の結果、誰かが殺されたときだけです。思ったほどこのような人殺しで暴力的な民の間でも、人が死ぬことは滅多にありません。そしてもし判事たちが合意すれば、殺人者は広く辱められます。彼らはヘンドレイキ人でない民を襲撃するときにこのようなやましい気持ちを持つことはありません。そして多くの異邦人達は王に貢納して、この種の襲撃の暴力による被害を減らそうとしています。

アンドリン王の人となりに関して
ヘンドレイキ人の王の個人的な肖像についてこれからあなた様にお話いたします。彼の名前はアンドリンで、あだ名は「揺り動かす者Mover」です。彼は大柄で頑強、栗色の髪で、むしろ醜い鼻を持っています。目は輝く炎の火花のようです。肌は数多くの刺青が施されていて、身体に絵が描かれているように見えます。彼はとても男性的で、衝動的な性格をしており、野心的で、どんな状況でも頑固で残酷です。才能に恵まれた詩人かつ魔術師です。

この王は「変容させる者Changer」と呼ばれる異教徒の魔術師の結社に属しており、供犠や魔道なしに呪いや呪文をかけることができます。彼の家門は北方から来たドラゴンと戦う司祭たち(訳注13)を含んでいて、王は「竜殺し」オーランスへの供犠を主宰します。若い頃、アンドリン王はジストル教徒と戦ったそうで、揺るぎない憎しみをジストル教団と我々の結社に対して抱いています。

彼は我々が贈った贈り物を受け取りましたが、我々を侮辱するため、彼がロクシルから盗んだいくつかの品物を我々に与えました。それにも関わらず、数季節のあいだ、彼は自分の家門に随行することを我々に許しましたし、家門の者たちの乱暴から我々を守ってくれました。

訳注5:Arskan Keko、Ezkankekkoのなまったもの。一なる老翁
訳注6:just by the terror such a drop infuses into the mind.
訳注7:ファーロングは1/8マイル。つまり3.75マイル
訳注8:「赤の」オールマンダーンが竜王イスガンドラングに敗北した事件。ヘンドレイキ族も伝統主義者側の陣営に参加していた
訳注9:Esrovuli、エスロリア人
訳注10:Hurlant、ヒョルトランド中部の民。おそらく祖先はヴィングコットの子らだが混血?(Thunder Rebels)
訳注11:Durevi、海に沈んだAdorenの農夫の民。オーランス人だが別系統。(Thunder Rebels)
訳注12:Pelaski、右腕諸島の住民。海の神々の信者
訳注13:アラコリングのオルヴァンシャゴールの司祭。アンドリンは北方の英雄アラコリングと親交があった

Excerpt from History of Heortling Peoples