神々のふたつめのあやまち:冬と食べ物の競い合い

神々のふたつめのあやまち:冬と食べ物の競い合い

かつて、ベレンデンボスという美しい神殿がありました。この神殿で最初の子どもが生まれたのです。また、「二重かがり縫い」が発明されたところでもありました。草花はひとりでに育ち、狩りの獲物はあり余るほどありました。悪天候はなく、誰もが調和と安らぎの中で暮らしていました。「種蒔きの母」がくるときには実りはあまりにも豊かで、ネズミは肥え太りましたが誰も気にしませんでした。ヴェスモルーサはここで最初の鎌を作りました(訳注1)。

ベレンデンボスとその周りは「第一の母」デル・オライオスによって治められていました。神々の三世代目の三番目の娘で、最初の「白の女王」から八世代後でした。彼女の弟は「七の守護者」(訳注2)と呼ばれていました。

この古の時代に、天の女神はしばしばたわむれをおこないました。時には空の色が変わり、ある時には火や雲や影が現れました。時には空が忙しく動き、まったくでたらめに動き回ることもあったし、全く動かないこともあったのです。時には女神は暖かくしたり涼しくすることもありました。女神はこれらのことをただ変えて楽しむためにやったのです。


ある日、冷気がやってきました。この日が本当に寒い最初の日でした。人々は皆非常におそれ、「デンダーラ(美徳の女神)」たるエンテコスに尋ねました。

「いったいなにが起きたのでしょうか。」

女神は自分の民をそこまで心配させたことに衝撃を受けました。女神は自分がしたことが民になにをもたらしたか知らなかったからです。女神はなにもかもを暖めてから、なにが起こったかを語りました。

エンテコスは悲しんでいるウサギ(訳注3)に出会いました。エンテコスは元気付けようとしましたが、ウサギは

「おいらが悲しいのは女神さまが遊んでいる「気温」をからだで感じたことがないからだ。」

女神はウサギを喜ばせるために優しく涼しい風を吹きました。ウサギがこたえるには、

「なにも感じないや。」

女神はもう一度、少し冷たい風を吹きましたが、ウサギの言うには

「おいらは女神さまを感じ取るには強すぎるにちがいないよ。」

女神の三番目の息は烈風で、近くの水を全て凍らせましたが、ウサギは平然としていて、

「エンテコス様はおいらに触ることもできない。」と言って泣きました。

ついに女神は自分のできる限りもっとも冷たい風を吹き、ウサギはとても寒かったので、毛皮の色を変えました。ウサギは

「嬉しい、ありがとう。」

と言いましたが、その場から去るときに、こっそり氷の柱を盗み取って、秘密の場所に隠したのです。


エンテコスがウサギと別れると、女神の恐るべき冬の嵐が国を襲いました。あらゆる所の民が怯えました。多くのものや民がこちこちに凍ってしまい、死んでいるかのようでした。多くの賢い人々が他の人の求めに応じて助言を与えました。

「神聖な籠」アグラケータが人々に回され、寄り合いがベレンデンボスで催されて、非常事態について意見が交わされました。五人の女神たちが女衆の中から出てきて、杖とドラムが手渡され、甘い水と苦い水が飲まれました。最後に女神たちが助言を与えました。

七十九種の食物が言うには、

「民が私にふさわしい敬意を示し、誉れを与えるのなら、飢えに対する恵みを与えることを受け入れましょう。」

食物が提供され、食べ物はみずからの来歴を話し、食べるためになにが必要か教えました。これらが「食物の物語」で、農民なら誰でも知っている話です。そしてどの食物が一番滋養があり、もっとも多様で、もっとも癒しの力があるかなどが決まりました。

しかし民は七十九種の食物全てを育てることはできませんでした。民はどの食物が一番豊かで、天候に関わらず食べられるかを知りたがりました。九種の穀物が、自分が一番だと言いました。

九人の美しい女性が自らを証し立てるために名乗り出ました。それぞれ前に進み出て、一番きれいな晴れ着を着て、髪を結い、白い貝殻と黒いビーズの首飾りをつけていました。女性たちはそれぞれ墓穴のような溝の中に横たわり、彼女たちの母たちが美しく悲しい歌を歌うと同時に、土がかけられました。見ている人たちはありあまるばかりの実りに期待してほとんど恍惚としていました。

しかし再度恐ろしい嵐が襲ってきました。この嵐は「首曲がり」(訳注4)に盗まれたもので、女神たちを攻撃するために使われたのです。引き裂くばかりの風があらゆるところに吹きすさび、誰もが隠れるところを探しました。雪が何もかもを覆ってしまいました。

寄り合いの面々が前に進み出て「雪解け」の歌を歌いました。すると雪が消えて鳥たちが戻り、女神たちの歌に和して歌いました。そして「競い合い」を続けました。それぞれの競争者の出した芽や葉や若枝や種を数えたのです。

全体として、大麦がもっとも人気でした。そしてその日は多くの民の種の袋として受け入れられました。大麦が一番実りが豊かでした。米と小麦も人気がありました。特にまた嵐は来ることを信じないおめでたい人たちに好評でした。ある人々はライ麦カラス麦、キビを好みました。雑草はどっさりではなくてもいつもまた生えてきたからです。レッドグラスやサーネイは無視されました。しかし後になってある人々はこっそり戻ってきて、他の民が無視するにしてもこれらの雑草になじみました。ダンザーは誰も選ばなかったので、獣だけが今日はこれを食べます。

ある日のこと、「天の母」エンテコスが民の下に降りてきました。女神はジェルノティウス山に向かっていました。女神は万人に自分が死にかかっていることを明らかにしました。女神は、

「「曲がった神々」(訳注5)が私の力を全て奪い、ゆえに私は死にかけています。」

「私は死の女神と再会します。」エンテコスは言いました。「このたびは喜びもなく。」

女神が亡くなったとき、空はエンテコスの力なしには冷たく灰色になりました。エンテコスは長いこと地上界から離れました。後に女神は時おり空にいるところを見かけられました。(訳注6)しかし女神が地上にいた頃ははるかに簡単に女神に会えたのです。女神が去った後は冷たい嵐がさらによくやって来るようになり、人々はみな小屋に住むようになり、陶器のつぼに食べ物を蓄えるようになりました。

訳注1:Vesmortha、おそらくSedenyaの化身、もしくは関係ある女神
訳注2:Protector Among Seven
訳注3:Hare、トリックスター
訳注4:Crooked Neck、トリックスター(もしくは嵐の神性)、エンテコスから氷の塊を盗んだ者
訳注5:Crooked Gods、トリックスターのしもべたち。「曲がった(嵐の)ルーン」を持つ蛮族の神々
訳注6:KataMoripi、イェルムが死んだ後天に昇った惑星。「黒い」デンダーラと呼ばれる

Excerpt From Greg Stafford's Entekosiad