ヒョルト王3:創始者ヒョルト

以下はBook of Heortling Mythologyの「我が戦い、皆が勝った」の描写の抄訳です。ここの文章は非常に謎めいていて、訳は困難ですが、含まれている意味を察してくれればと願っています。

創始者ヒョルト

ヒョルトは砦の間を疾駆する「鹿の民」のひとりであった。道を知り尽くしていて、屋根の下に暮らしたことはなかったし、オークフェドの炎に守られたこともなかった。強くたくましく、遍歴する「逞しい雄鹿」と呼ばれていた。

ヒョルトはオーランスを知らなかった。なぜ気にする必要があるだろうか。オーランスは去ってから長い年月を経ていて、祈りに応えることはなく、生け贄を呑み込むだけで加護を与えなかった。ヴィングコットに己の民を滅ぼす法を与えた神だった。ヒョルトは祈祷に使う水を腐った木の後ろに隠れて生えている植物にやり、眠っている間に見張り番にしくじらないように仲間にたいして祈りを捧げたものだった。

ある夜、ヒョルトが見張り番をしているときに世界は死んだ。光の亀裂が走って天が割れ、大地はゆがんで裂けて、覆った。混沌が勝利したのである。世界はばらばらに砕けて先闇へと還っていった。

ヒョルトは当然身を隠した。まだ死んでいなかった。ヒョルトは山の峰が近くに落ちてきたときにはよじ登り、炎の嵐が頭上を覆ったときには川に飛び込んだ。大地が煙を吹いたときには木の枝の上に留まったのである。ヒョルトは自分がどこにいることになるのか分かっていなかった。「先闇」が近くに迫っていることに気づいていた。ヒョルトは混沌の中にいた。

そのとき、ヒョルトは裸の男を見つけた。ひとりの人間であり、ヒョルトはその男がヴィングコット族の刺青をまとっていることに気づいた!ヴィングコット王家の刺青であり―奇妙なことに呪文や呪符の印はなく、家や子供や、妻や、祭壇や、征服を示す印も彼の身体にはなかった。あるのは傷と、ヴィングコットの息子であることを示す印だけであった。

ヒョルトは話しかけた。「貴方の兄弟より、次男殿に挨拶を送る。」その後二人は言葉を交わし、ヒョルトは「次男」から知恵を授かった。ヒョルトは生き残るために必要な知識を学んだ。その秘密とは(訳注1)

その時、ヒョルトは「我が戦い、皆が勝った」の戦いを戦った。このように呼ばれているのはひとりの男であるヒョルトのみがこの戦を戦ったのだが、ヒョルトが究極にして最後の戦いのなかにいたとき、見ることができないにもかかわらず、自分以外の存在を感じ取ったからである。ヒョルトが目が見えない、見たいと思ったときに、燃える矢が地面に突き立った。ヒョルトが斬りつけるような冷気に包まれると、凍りつくような炎が彼の身体を蔽った。ヒョルトが一息ついたときには、自分の息が雲を晴らし、その中から小さな生き物たちが現れて混沌を貪った。それが済むと、ヒョルトはまたひとりだった。

ヒョルトは生き延びた。ヒョルトは生と死の違いについて学び、生と死を異なるものにすることを求められた。お前は今にこの秘密を学ぶだろう。すぐ、今夜に。お前は「次男」に会って、戦わなければならない。そして戻ってくる道を見つけなければならない。(訳注2)

ヒョルトは戻る道を知っていた。ヒョルトは矢を見ていて、杭を見ていて、輪を描く丘を見ていた。そしてそれら三つのものを受け入れた。ヒョルトは「次男」と会った空っぽの場所を通り過ぎた。ヒョルトは槍と、柱と、岩の輪をたどり、それらを受け入れた。ヒョルトは世界がばらばらになる前に出発した野営地に戻り、野営地が無事であることを見た。しかし今や空っぽだった。彼が野営地を出発した時は山の麓だったが、今や海の岸辺だった。

川は今では丘を下り、(訳注3)丘を昇っていなかった。物事はあやふやな状態で、ヒョルトは多くの怪物や死んだものがいまだにうろついているのを見た。しかしヒョルトは死んだものと生きているものを見分けることができた。ヒョルトがクリークストリーム川の河口に来ると、ヒョルトはカワウソと鮭が争っているのを見た。ヒョルトは石を手に取り、息を吹きかけて、石を投げて争いに介入した。幽霊が去るように。

鮭は言った。「貴方はその石をいつの日にか私を戻すために使うことができるだろう、もしくは川を友人にすることができるだろう」カワウソはヒョルトに感謝して、死者の国に去った。しかし今日、クリークストリーム川やコラリンソール湾にカワウソは全くいないのである。

ヒョルトは近道だけを進み、進むにつれて暑くなっていった。谷を下ると二つの炎が争っているところに来た。しかし一方の炎は死んでいた。そのためヒョルトは石のひとつを手にとって、言った。「お前は「異なる炎」だ。精霊とともにある精霊でなく、自我とともにある自我に過ぎない。」そして死んでいる炎(炎を食べる)は死に、我々が今日使う炎を残していった。

炎の精霊は言った。「貴方はその石を「死せざる者(訳注4)」を倒すのに使うことができる。あるいは私を呼び戻すことも。」飽くことを知らない炎もヒョルトに感謝し、石の中に入った。

炎が鎮まると、暗黒が突然冷たい乾いた霧のように流れてきた。ヒョルトにはなにも見えなかったし、このときが「物(訳注5)」がふたたび近寄ってきた時だった。ヒョルトは聖なる玉石を取り出して、「物」に対して投げつけた。「お前こそが異なる者だ。」「物」の暗黒は薄くなり、夜を離れていった。「物」は地界に戻っていくことができるようになったことに関してヒョルトに感謝した。ついに夜は清められ、ヒョルトに感謝した。そして石を用いれば、夜を安全に過ごすことができるようになると告げた。

ヒョルトの足元の大地は震え、揺れ動き、岩と土は再び分けられた。岩と土はヒョルトをその年に育つ、大地の種のひとつとしてどちらが取り込むか争った。ヒョルトは争いに介入し、死んだ石はふさわしい場所に置かれた。豊かな土は谷や、丘の麓に落ち着き、芽を出した。

大地が落ち着くと、強大な嵐が頭上に巻き起こった。ふたつの嵐が争い、オーランスが鈍い石を取り出して、命じた。「汝こそが「異なる者」だ。去れ。」大気は鎮まり、「霊の嵐」のみを後に残していった。それはヒョルトに感謝し、言った。「私は去る前にこの贈り物について貴方に話しておこう。」そしてヒョルトが持っている石の中に自らの息を吹き込んだ。そして死者の国に去り、今では永遠に沈黙している。

このとき、語り部は声を低くする。憶えておくがよい。お前はこれらの石を手に取るであろう。お前が「次男」と出会う道の途中で。お前はそれらを認めるだろう。これは試練なのだ。石を手に取れ!

訳注1:原文はここで切れている
訳注2:おそらくヒョルト人の入信の儀式はこの出来事を模したもの
訳注3:昔のように
訳注4:アンデッド
訳注5:creature