ヒョルト王1:ヒョルト王の祖先

以下はBook of Heortling Mythologyの一部の抄訳です。訳の間違いの責任はZebにあります。

ヒョルトの祖先

ヒョルトはこれまで生まれてきた全ての人類のなかでもっとも偉大な者である。我らはヒョルト人であり、彼の民である。

ヒョルトは偉大な血筋のもとに生まれた。オーランスは偉大なる父であり、多くの子供がいた。これら偉大なる者のひとりが、太陽が沈む前の古の時代に生まれた男、ヴィングコットである。

ヴィングコットが人類の最初の王である。オーランスと「稲妻の子ら」が大海を押し戻したときに、ヴィングコットは人類のところに行き、人類を統一した。人類は当時「アーナールデラの十五の民」と呼ばれていたが、その後、ヴィングコットの子らと呼ばれるようになった。ヴィングコットの子らは最初のオーランス人であり、人類の最初の部族である。彼らこそが我々の祖先である。ヴィングコットは彼らの王であり、ここに挙げることができないほどの多くの偉大なことをおこなった。ヴィングコット王は一万年の間、自らの民を統治し、民を守り、民をしたがえた。ワクボスがヴィングコットを殺した。

コロル・カンドロスは彼の偉大な息子たちの一人である。コロルはヴィングコット王の夏の息子の一人である。ヴィングコットの民を偉大な業績に導いた四兄弟のひとりである。あるとき、コロルは安全な住むところを求めた。コロルは自分の砦を建てるところに巨大な丘を盛り、丘の頂上を屋敷(ステッド)だけでなく、畑まで囲む巨大な壁で囲んだ。今でもコロルテス部族の王たちが住んでいるドジリランドにその丘を見ることができる。コロルは自分の民を長く賢く統治し、彼の民は幸せだった。コロルは父が死ぬ前に亡くなった。ある戦の神が、「死」の自分の分け前を受け取った後に、コロルを戦で討ち取った。

「さすらい人」アーサルはコロルの息子である。彼は独自の誉れと生き方を捜し求めた。アーサルが若かった時、大海が退いていき、何もないうつろな土地が住み着いて満たす生き物を求めていた。アーサルはすべての持ち物を一頭のオーロックスに載せ、長い年月、オーロックスを追っていった。多くの荷物を負った牛がさすらう間、多くの冒険をおこなった。アーサルは最後に、牛が休んだところに落ち着いた。アーサルはヴィングコットに生贄を捧げ、聖なる氏族の石を立てた。アーサルの隣人たちは怒り、アーサルは何度も戦わねばならなかった。アーサルは「牝猪の敵」と呼ばれ、五百年近くを生きた。しかしヴィングコットが殺された時、アーサルも猪によって殺された。アーサルの民はその後、コロルステッドに戻った。

「懲罰者」デスケドフはアーサルがケロフィネラに戻った時に生まれた若い方の息子である。デスケドフは素手で人を殺すことができた。アダランス王の妻にして、美女でトラブルメーカーのオーノルスタ女王の「懲罰者」の護衛であった。デスケドフには多くの子供がいて、彼の子供の何人かには子供がいた。彼は氷の上に置き去りにされた者であり、彼の息子たちの全ては狩りに出ていたひとりを除いて、「剣と兜のサガ」で殺された。

「俊足の」パーントールがデスケドフの生き残った息子である。多くの者に求愛されていた「牝鹿の娘」を七年と七日の追跡の後に捕らえ、結婚した。あるとき、ブルーが二人を襲い、ふたりは持ち物や着物を全て捨ててブルーをとまどわせ、逃げ出した。常に寒風の吹き荒れ、夏は我らの夏のような地に裸でたどり着いた。二人は子供を持ち、ともに「鹿の民」を創始したのである。パーントロールと「牝鹿の娘」は氷が牧草地を奪い、トロウルが羊を奪った時に、ケロフィネラに鹿を取り戻した者である。「鹿の民」は他のヴィングコットの子らが生き延びていた小さな砦のいずれにも長く留まることはなく、互いに離れて暮らしていた。「鹿の民」は暗黒の中ですべての安全なところを行き来する道を知っていて、王の使者であった。

「烈風の」ダーントールはアンダルンの偉大な息子である。ダーントールは非常に力を持った神官であり、神々と話すことができた。ダーントールは我らの神、オーランスが自分の意志でこの世界を正すために出発した時に居合わせた。その後、ダーントールは自分の家族を捨てて、裸の狂信者としてステッドを渡り歩いた。常に地界にいるオーランスに生贄を捧げることを求めたのである。ダーントールは常に平和を追求したが、あやまちを犯したコルドロスのヘクタスタロス王を守ろうとして死んだ。彼はそうすることを望んでいなかったが、オーランスの名の下におこなった誓約に縛られていたのである。選択の結果、ヘクタスタロス王は「氷の王」となり、生きたまま凍りついた民は全て彼を呪い、彼の幽霊は永遠に苦しみながら世界をさまようようになった。(訳注1)

オーナガルドはパーントールの息子である。彼はダラガルドとアンダルンとともに狩をおこない、一頭鹿を捕らえた。彼らは鹿をどうするかで争った。ダラガルドは殺され、オーナガルドは家族に食べさせたが、アンダルンはオーランスに焼いて捧げた。ある者はこのアンダルンこそ「生命持ち帰りし者の探索行」でオーランスに同行したアンダルンであると言う。

オーナガルドがヒョルトの祖先である。五十もしくはそれ以上の世代が離れても、「鹿の民」の語り部たちはこれらの生き残りたちの名前を全て朗誦できる。彼らの名は「禿鷹の無宿人たち」の間に現れる。烏から火を手に入れたヘレデン、巨大な禿鷹の背に乗って巣に行き、卵を破壊したジェラダン、自分の恋人たちを野生の動物に変えていたアリナを愛したアーマンドル(アリナは子鹿をその父親のところに追いやった)、ソレンサロスタがその子鹿であり、デクサルスヒル(訳注2)の王の娘と密かに暮らしていた。娘の父親がこの魔法の鹿を殺すと、王の娘は子供を産んだ。この子が「鹿角の」ダーンドレヴであり、二歳にして四つ足の祖父より足が速かった。ダーンドレヴは有名な「愛の杖の英雄たち」のひとりであり、暗闇が落ちるずっと前に、「赤の」ドレニヤンと(ドレニヤンは一振りの剣と二そうの槍しか持っていないのにもかかわらず)「エスロリア人の夫」として結婚した。二人は混沌とともに戦って命を落とした。

ダーンドレヴとドレニヤンの息子であるヒョルトは野に生まれ育った。「鹿の民」のひとりであった。「闇の時代」であり、正しいものは何一つなかった。オーランスは出発してから長い年月が経ち、多くの民は彼のことを憶えていなかった。後に残った神々は弱く、貧しく、健康に生まれるものはなかった。作物は明滅するエルマルで暖められるだけで萎縮していた。あらゆる種類の怪物たちが土地をさまよっていた。大部分の民は弱っている寺院の近くに住んでいて、巨大な守られた丘の砦の中に、オークフェド、野火で守られていた。境界線の回り全てを燃やしている聖なる火を越えることのできるものは多くはなかった。たいていの場合、より平凡な手段で、よだれをたらす亡霊や、盗みを働くトロウルや、略奪する民(訳注3)やブルーや、その他の奇妙なものは追い払われていたのである。

民は食べていくのに苦しみ、オーランスに生贄を捧げることには構っていられなかった。オーランスは貴方が知っている通り、誰かが祈りを捧げない限りおそらく死んでいたであろう。オーランスは私たちが彼を必要としていたのと同じくらい私たちを必要としていた。しかし生の世界が地獄のようであった時、オーランスに祈りを捧げることが何らかの助けになると信じる者はいなかったのである。「霊の嵐」(訳注4)の存在がなければ。「霊の嵐」は恐るべき嵐の亡霊で、土地を荒れ狂っていた。もし何者かが「霊の嵐」に逆らったら、「霊の嵐」はすべてを破壊していただろう。「霊の嵐」は青銅の館と、その中のすべてのものを破壊した。しかし、「霊の嵐」と取引をおこなうことはできたし、「霊の嵐」が求めるものはわずかな生贄であった。そのため可能なあいだは、民は供犠をおこなったが、できなくなるといつも止めてしまっていた。その後、「霊の嵐」の訪問が始まると、又同じことが繰り返されるのであった。

訳注1:ここの記述を見る限り、アンダルンとダーントールはヒョルトの祖先ではないのだが・・・
訳注2:Deksarshill。アガーのインフィステーリ部族の中心地
訳注3:falk、意味不明
訳注4:Ghost Gale、サガのあとのほうで再登場する