「破壊」と「犠牲」1

グローランサ西方に住んでいる民は、論理の民です。論理的であることを至上の命題としている以上、彼らの奉ずる宗教においても、何よりも論理的で、首尾一貫した世界観を理想としているものと推測できます。また寛容さ・意見の多様性などはつまるところ無秩序に由来するものなので、全く美徳と見なされないことも考えられるでしょう。

下記の訳は、グレッグ・スタフォードがRevealed MythologiesやMiddle Sea Empireに記述したグローランサ西方の物語の抄訳です。ただし、グレッグ・スタフォード自身は上記の論理の民の特徴に全く反する特徴を持っていますので(笑)、矛盾した記述を行うこともありえますし、RMとMSEで考え方が変わっていることも十分にありえます。おまけにStafford Libraryは不完全なドラフトの寄せ集めです。

下記はRevealed Mythologies p.8に載っているマルキオンの死の有様です。(この物語の解釈は宗派の観点によって異なります。はっきりグレッグは名指ししていませんが、マルキオンを善とする道徳的な観点を含んでいないことから語り手はザブール、もしくは立場の近いブリソス人である可能性が大です。)

マルキオンは殺されました。

ある時、マルキオンは人となりました。

ある時、マルキオンは「理性の塔」を出ました。そうすることで、考えを持たない全ての生物を導く「本能」なるものを解放したのです。

創始者」マルキオンは数世紀もの間塔にこもり、彼はその間純粋なる「理性」でした。しかし「創始者」は物質界に移動することで犠牲となりました。ある者は、人と魔法の分かたれた領域を正そうとしたのだと言います。彼は「長老」マルキオンと呼ばれるようになりました。(注1)

「第五の御業」は有限の領域と無限の領域を制限された論証で混ぜ合わせることでした。残念なことに、この論証はマルキオンに敵対する異国の民と種族の強大な敵意に対抗するにはあまりにも漠然とした不適切なものだったのです。

マルキオンはいくつもの奇跡を行い、最後に彼の敵や彼の命に従わない者たちを集めることに成功しました。マルキオンはこれらの存在の中に自分の持たないものがあることに気づきました。マルキオンはこの未知のものが隠された自身の力であって、あまりにも堕落していたがゆえに、「一なる精神(注2)」にすら分からないものとなっていることに気づいたのです。

この思考により、創造主は完全に限界の力を経験し、その過ちにより、完全に物質界に縛られてしまいました。

「長老」マルキオンは大いなる集会に向かいました。マルキオンは「守護者」たち全員に彼らの命の力をもって援助するよう頼み、合意を得ました。これらの守護者たちは残存する全ての始原の種族であり、最初の「反逆の神々」の兄弟であり、姉妹でした。(注3)

その後、マルキオンは全ての自分を信仰する司祭たちに援助を求め、全員から問答なしに賛成を受けました。それが古代の法であり、全ての信者はずいぶん前に従う司祭魔道士たちを全力で援助することを誓っていたからです。

そこである悪い女が、場もわきまえずにマルキオンに対して、ザブールも援助してくれるかどうか尋ねました。

したがってマルキオンはザブールにも力を貸してくれるように頼みました。しかしこの魔道士とその民は姿を見せていませんでした。ずいぶん前に、この偉大なる魔道士はマルキオンに自分の論証、理論、思考、知的な論拠を提示し、完全に礼儀にかなったことをしていましたが、この最高位魔道士は決して「創始者」に頭を下げることはありませんでした。そのため、ザブールが抵抗したとき、マルキオンのいかなる命令も無視することができたのです。

そして「創始者」マルキオンは「第五の御業」の隠された力を通して、「創造主」の諸力がみずからを認識するように、また自らの周囲の世界を再形成するように呼び起こしました。力は働きましたが、うまくはいきませんでした。

司祭たち、族長たち、その他全ての敵は消え失せました。気化し蒸留されて、もっとも単純なエネルギーと形質になりました。炎が音を立てて燃え上がり、水は騒音を立てる緑色のものになり、はためくものは滑り落ちました。

万物が変わりました。民の大群衆も皆変わってしまいました。彼らは創造されたものの物質の本能に従い形作られました。これらの物の全ては以前見られなかった二つの怪物の軍勢となりました。最初は物質のデーモンであり、命を真似、冷酷で貪欲な本能によって動いていました。第二はより悪い怪物で、エントロピーのカージョールクの群れでした。本能によって動く怪物で全宇宙のエネルギーを飲み干そうとしました。両方の軍勢が疫病のように物質界に蔓延しました。これらのものの不義な奉仕により、全世界はゆっくりと最古の原材料たる実体なきエネルギーと、形なき物質へと戻っていきました。

「理性の塔」はマルキオンが野で殺されたときに崩れました。怪物の軍が誤った「創始者」を援助した者全ての土地を席巻しました。これらの誉れ高き地の少数の善意ある生存者は、洞窟に隠れひそみ、苦々しくも「本能の洞窟」と名づけました。

ブリソスの地、完全なる者たちが住まう地のみ、救われたのです。
注1:Malkionaru、「犠牲」マルキオン。もしくはElmalkion、「長老」マルキオン。

注2:One Mind、この語が後の神知者の唱えるMakanと同じ意味であったかどうかは不明です。

注3:「反逆の神々」や「守護者」はいずれもおそらくErasanchulaを意味します。