ローマ的ルナー帝国3

ローマ的ルナー帝国3
矛盾を内包していること、理想と現実の乖離はどんな社会でも見られることでしょうか。またルナーは矛盾を内包することでかえって完全となるという考えなので、特に矛盾を隠そうともないということもあると思います。

同じ点
パンとサーカス
ローマ帝国では選挙があり、民衆に対する娯楽を提供することで有力者達は人気、そして官職を得る必要がありました。また、ローマ帝国ではポエニ戦争以後、都市社会の貧富の差が激しくなり、投票権は喪わなくても経済的に貧民と化した民衆をなだめるために、無料で食料を配給し、また娯楽が与えられる措置がとられました。これがいわゆる「パンとサーカス」です。

ローマに留まらず円形の競技場が建てられ、都市の戦車競技や剣闘士の死闘、模擬海戦などが開催され、皇帝自身も顔を見せて民衆にアピールする手段が取られました。映画では古くは「ベン・ハー」、最近では「グラディエイター」などのイメージです。

ルナー帝国でも事情は異なりますが、大衆の娯楽が競技として都市部では提供されているようです。Under the Red Moonによると、都市下層民が光輝ルフェルザの「暴徒」として扇動家に率いられています。(ナイサロールの伝承が民衆の中で伝えられたということに由来するのかもしれません)事情によっては蜂起し、「Want More, Make me a Duke!」と昔のダラ・ハッパでは叫んでいたようです。

皇帝の「仮面」のうちロブストゥス帝はこのような暴徒を扇動して貴族階級の特権を剥ぐのに用いていました。また、剣闘士の試合も伝統的な競技(Fortunate SuccessionによるとザスターニックZasturnicの競技、オロージニアンOroginianの競技)とともに行われ、剣闘士たちはグレブラーGrevlarのカルトによってまとめられています。

食料の無料配給も、「ルナー帝国の経済」を読む限り、グラマーでは行われているようです。ルナー帝国で民衆がこれほど力を持っている理由は不明確ですが。また、「狂戦士」ハレックは一時期剣闘士であったとの話ですが、また(後述する)ダート戦争の刺客でもありました。彼の帝国に対する敵意はこの頃生まれたとのことです。また彼はイグニフェル帝を暗殺しました。

異なる点
・地方権力
ローマ帝国では、領土が大幅に拡張した共和制末期、それに続く帝政(プリンキパートゥス制)の間、属州Provincia制度が採られていました。一般に出世するローマ貴族は民衆投票の選挙で公職につく必要があり、これをクルスス・ホノルム(栄達の道)と呼びました。公職のうちもっとも高い地位がコンスル(執政官)やプラエトル(法務官)で、彼らは2年の任期のあと、例外なく属州で総督として派遣されました。彼らには任期があり、もちろん世襲ではありませんでした。(かえって短い任期の間に稼ごうとして、袖の下がまかり通り汚職の温床ともなっていたとの話もあります。)

封建的になったビザンティン帝国では事情が少々異なります。ヘラクレイオス朝以来のテマ制では、各軍管区がストラテーゴス(将軍)の支配下自治が許されており、世襲も後代になるにつれ黙認されるようになりました。現在のルナー帝国の事情に少々似ているのかもしれません。(ペルシアのサトラップ制でも似たようなことが起こりましたが、ここでは割愛させてください。)

17世紀のルナー帝国では、例外なく8つの君主領(シリーラ、コースタディ、オラーヤ、ドブリアン、ダージーン、カラサル、原聖地、オローニン)では氏族が世襲で、代々称号を受け継いでいます。正確には君主の称号はサトラップSatrap(カルマニア式)あるいはSultan(ペント式)ですが、彼らの地位がどのように変遷してきたかについては資料が不足しています。

意思決定の中心を分散させることで安定するかどうかはわかりませんが。下記に挙げる各地の君主領を支配する氏族は、例外なく後期帝政の時代に権利を皇帝から認められています。

現在の支配氏族
・イール・アリアッシュEelAriash氏族:オローニンの支配氏族。ホーン・イールの血を引く。1543年(FSによると1547年以降)、ロブストゥス帝によって(しぶしぶながら)認可。同帝と争うが失脚せず。(皇帝の放った税収魔は追い払われた。)

交配の末産み出したジャ・イールの属する氏族。(そして今上の皇帝であるアルゲンテウスはジャ・イールに殺される)

・エリオ・ユニトErrioUnit氏族:シリーラの支配氏族。1561年、ケレスティヌス帝に認可される。

・モラーリ・ソールMolariSor氏族:オラーヤの支配氏族。元は皇族。1527年(FSによると1522年)、ヴォラシウス帝によって認可。

・ラスターリ・イニングRastariIning氏族:カラサルの支配氏族、1506年の「恐怖の夜」でヴァルセーディ氏族から特権を奪う。グレートシスター(デネスケルヴァ)と君主領内の諸権力をめぐって暗闘。

・セーブルSable族:コースタディの支配(部)族。現在のプラックスのセーブル族とは血続き。第二ウェインのジャニソールの乱でルナーに転向。1436年、シェン・セレリスにあくまで逆らったことを皇帝に認められ、以後同君主領を支配。

・タラン・イールTaranIl氏族:原聖地の支配氏族。ジェネット・アロール氏族から1527年、ヴォラシウス帝の認可の元地位を奪う。「花の詩」というニンフの血を引く。

・ワイルア・ウールWylurOor氏族:ダージーンの支配氏族。1548年、ロブストゥス帝に認可される。ダージーンの英雄ヴェロンドゥムの血を引くと自称。(シュール・エンスリーブの大女祭ベヴェレティアは現在のサトラップの愛人)

・ヤノリアーオ・イラートYanoriaoIlart氏族:ドブリアンの支配氏族。1575年、ミリタリス帝によってダート戦争の結果認可される。ヴァクーサン・イラート氏族と血縁関係の可能性?

下記は何らかの理由で特権を失ったか、血筋の絶えた氏族です。
・ジェネット・アロールJenetAror氏族:元原聖地の支配氏族。タラン・イール氏族に権利を奪われ、ヴォラシウス帝を暗殺。ヴェネラビリス帝に皆殺しにされる。彼らを破滅に陥れた高級娼婦センセーラは後ルナーの娼婦の神として神格化。

・オエーラ・ダンOyeraDan氏族:元オラーヤの支配氏族。ホーン・イールの血を引く。モラーリ・ソールMolariSor氏族に支配権を奪われるが、ホーン・イールの司祭の一門としては存続。

・ヴァクーサン・イラートVakthanIlart氏族:(第一ウェインにて)元オローニンの支配氏族。創設者は皇帝の皇子ヴァクーサンVakthan。血王戦争で活躍。以後の経緯は不明。

・ヴァルセーディVarsedi氏族:元カラサルの支配氏族。「恐怖の夜」で一族を大幅に喪う。ラスターリ・イニング氏族に地位を奪われる。

・フワーレン・ダールシッパの一族(氏族名は不明):今日でもシリーラ君主領では強盛。現在の支配氏族(エリオ・ユニト)との関係は不明


・属領地と総督
ローマ帝国では前述のとおり、総督は任期を終えた執政官、法務官が、元老院に落ち着くまでの天下り先として付く地位でした。この制度は皇帝が直轄して代官を置いた重要な地域(穀倉地帯のエジプトなど)を除く各地で行われていました。

ルナー帝国でこの制度がいつ始まったのかは明らかではありません、そして総督府がおかれているのは17世紀現在のところカイトールとミリンズ・クロスだけなので、ローマと比べようもありません。

シェン・セレリス以前は不明ですが、私の持っている資料の中で最初にProvincial Overseerの称号を与えられたのは「隻腕」のターシュ王ファージェンテスです。(任期1555?〜1579)彼はこの地位を悪用して、ホーレイ、アガー、バラザールから領土をターシュに割譲させました。もともとターシュは属領地の諸王国の中で国力が最強であり、彼の治世にファーゼストは帝国で屈指の都となったと思われます。

現在の南方の属領地政府はファージェンテスの教訓を生かして、ホーレイ王国のミリンズ・クロスに置かれています。今の総督はアッピウス・ルクシウスというライバンス出身の人間で、1586年からこの地位にあります。(空白の7年間の総督は不明です。)

もう一人、総督と呼ばれている人物は西域領のパラムタレスで、彼は元コースタディの靴職人の子でした。彼は西域領では「パディシャーの目」と呼ばれており、非常に抜け目のない人物として知られているそうです。