ヒョルト王9:ヒョルトの死

下記はBook of Heortling Mythologyの一部の抄訳です。訳の間違いの責任はzebにあります。ヒョルト王のサガの最後の部分です。おそらくオーランス人と神の理想的な関係について暗示しているのだと思われます。

ヒョルトの死
稲妻がヒョルトを殺した。

エスロリア人は、ヒョルトは最期にオーランスと争い、今一度、現世の男の悲しい傲慢が繰り返されたのだと言う。彼らが言うには、ヒョルトは自分の妻の言うことを聞くべきだったと。

メルンガラ女王(訳注1)の代弁者は、自分が死を目撃したと言う。そしてヒョルトとオーランスが自分たちのいずれが重要なのか争ったのだと。その男が言うには、ヒョルトの能力は混沌と対抗するものであり、オーランスは混沌ではなかったから、オーランスのほうが優位であったのだと。その男は大きな声で疑問を口にした。「もしヒョルトが勝って、オーランスが負けたのなら、神々が今では定命の者となり、人類が不死で絶え間なく蘇ることになったのだろうか」エスロリアの祖母が言うには「なんというナンセンスを口にするのだ。友よ。」

エスロリア人はわかっていない。オーランス人は知っている。

ヒョルトの火葬場は聖なる頂(訳注2)にあり、この地でヒョルトの死は、われわれの言葉を知らない者にたいしても物語られる。長い形になった話もあり、ひとつは彼らの祖先たちに関してであり、もうひとつはこの出来事における神々の集まりについてである。

ある日のことセレルテロ(訳注3)、オーランスの使者が「偉大なる鹿」、われらの王、ヒョルトを訪れて言うには、

「わが偉大なる君主の息子よ。私は今日貴方を古の時間の前の君主である死から保全し、オーランスの大広間へと向かう偉大なる道へと招くために伺いました。」

ヒョルトが答えるには、

「私は自分が望むところへ戦ってたどりつくか、もしくは今いるところに留まるために戦うか、いずれかでしか動いたことがない。貴方の提案していることは二つ目の類のことだ。そして私は最善を尽くさずには、どこかへ去ることはないだろう」

「灰色ひげ」の法の番人が介入し、言うには、

「ご存知のとおり、法の作り手よ。掟は貴方が仕える君主の下に向かうように命じています。」

「私はオーランスのいかなる掟にたいしても誓いを立てたことはない」

ヒョルトは言った。「多くの他の者はそうしているようだが。下がっていろ」そして「灰色ひげ」は頭を下げて引き下がった。

ヒョルトの妻、イヴァーンが介入し、言うには「愛しい方、ご存知のとおり、いつだって他の方法はあるはずです。」

「これが私のやり方なのだ。そしてそれ以外のことを行っていたら、私は貴方には値しないだろう。お願いだ。自分の身を守ってくれ、下がっているのだ。」

そしてイヴァーンは夫の耳にささやいた後、退いた。

「お願いです。いらして下さい」セレルテロは言った。

「いやだ。来て私を捕まえてみろ」

「これはわが君が言っていたとおり。そしてこれが道であります」セレルテロは言って、合図をした。すると三人の稲妻の戦士たちが前に出てきた。

「三対一か。」ヒョルトは笑った。「老人は最後には名誉も捨てたか」

「いいえ、そのようなことはありません。」ヤヴォール(訳注4)は魔力を呼び起こすため投槍を握った。

「しかし我々はどのような方と対峙しているのか知っているのです。」

そしてそのままヤヴォールは自らを槍として投げつけた。一瞬のうちに一軍団を滅ぼすに十分な力を。ヒョルトの盾はヤヴォールをはねのけて、槍の穂先は鈍り、さかとげは曲がり、羽根は吹き飛んで、柄は砕けた。

「一対一です。」ダーンドール(訳注5)は言って、槍を構えて、神性を呼び起こした。

「生ある者のうちもっとも高貴な方のために」突きでヒョルトの盾を砕き、その後、槍と槍が交錯した。ついには王がダーンドールの刃を撃ち、ダーンドールの槍は折れて、柄は砕け、ダーンドールは倒れた。ダーンドールはよろめいて立ち上がり、去っていった。

「法と習慣と自然を超越する者よ。抵抗は不滅だ。」タリロール(訳注6)は言った。「貴方は祝福されている。」

タリロールは一撃した。そしてヒョルトは世界でもっとも偉大な戦士ではあったが、異界の槍はヒョルトの防御をすり抜けてヒョルトの精髄を撃った。そして元素はヒョルトの息と結合し、誰も耳にしたことのないような、耳をつんざくような轟音以外に声もなく、ヒョルトを破壊した。風が吹き荒れ、雲は裂け、影は揺れて、灰は吹き飛んだ。ヒョルトは解放された。

このことが起きたのが「聖なる頂」であった。今ではヒョルトはオーランス自身のテーブルに座っている。ヒョルトは望むままに去ったり、現れたりする。そしてこれまで生きてきた全ての生ある者に属する者である。ヒョルトはオーランスの二番目の友人である。そして望むままに座ったり、立ったりする力を持つ者である。


訳注1:Merngala、「銀の時代」のエスロリアの名高い女王
訳注2:Sacred Top。クィヴィンの地(第三期のサーター)にある聖なる墓所。ジャロサーとテラサリン墓所もある。
訳注3:Thereltero。「黄金の舌」と「言葉の母」の息子。日本語版サプリメント「ゆりかご川」では「伝令」ヘラルドと呼ばれていた。
訳注4:Yavor。元は火の部族の一人。雷鳴の兄弟の一柱。
訳注5:Durndor。おそらくオーランスの僕のひとり。
訳注6:Tarilor。おそらくオーランスが持つ最大の武器。解放の稲妻Liberation Bolt。