ヘンドリック王1(自由の主)

以下はHistory of the Heortling Peoples 66ページから69ページの記事の抄訳です。訳の間違いの責任はzebにあります。この記事は「デュレンガルドの巻物」と呼ばれるグローランサの文書で、スロントスの大公のために神知者の間諜がヘンドレイキの伝説を集めたものという形式を取っています。(この文書の冒頭の序文は拙いですがzebが抄訳しています。)


ヘンドレイキ部族はコラリンソール海の東にある高原の原住民である。ガランブーリ部族の王統が皆殺しにあった後、氏族は導きを与えるために新たな王が台頭するまで道に迷っていた。王の名はヘンドリックであり、彼の臣下の民はヘンドレイキの民である。ヘンドレイキの民は曙からずっと高原に住んでいて、いまだに住み続けている。

ヘンドリック
「自由の主」
ヘンドリックは故郷から遠く離れた「夜と昼の戦い」で戦死した「大腹の」フェンドールの末の息子であった。ヘンドリックの母は「ステッドの妻」デネスラであり、デネスラの家族が「シンシの野道」や、「バーベンドラの林」や「中の巣穴」を縄張りにしていた。

ヘンドリックは赤毛のアリンクスの毛皮をまとう「狩人Hunter」と呼ばれる氏族の出身であった。「狩人」氏族の祖先は神聖なアリンクスである「ガヴレンの子ら」であった。「狩人」の氏族はセン・センレネンと呼ばれる国に住んでいて、岩であれ、木であれ、獣であれ、流れであれ、そこにいる全ての「祖父」たちと「祖母」たちを知っていた。セン・センレネンはバラバムマー、すなわち「影」の土地であり、「狩人」たちは「影」(訳注1)とつきあう儀式も知っていた。

以下が「狩人」が季節を問わず「影」たちに「十の供犠」を行う場所である(訳注2):「ガランの石」、血を捧げる場所。「ガヴレンの石」、肉を捧げる場所。「フィノヴァンの林」、ハンノキの皮を捧げる場所。「デッコの裂け目」、羊を捧げる場所。「冷たい火の岩」、ここで怯える幽霊たちはイングランスの民。「デッコの裂け目」、牛と黒馬。「サイフォン川」に青いボート。「デッコ」に一頭の生きた熊と十頭の死んだ鹿。「ケステンの岩」。「ボレンガーの林」では樹木の女(訳注3)に生贄を。

「影」たちは「母」に非常に近い子供である。「母」の孫(訳注4)はそびえる「黒曜石の高楼」にある「夜の宮殿」から支配している。「狩人」の氏族は「母」と疎遠だが、いずれにせよ古の約定の一字一句まで忠実に守るかぎり、「母」の一部である。この流儀で「狩人」たちは他のキトリの氏族と同じく、大暗黒を生き延びたのである。

「影」たちは「時」より前からいた存在であった。「影」たちは姿を変えられた。「影」たちは時々ほとんど物質を持たず、触ることか心霊的な目でのみ感じ取れたし、またあるときには巨大な怪物であり、小さなものであることもあり、ときには人の姿を取ることもあった、人の姿のときはもっとも恐れられた。

彼らは定期的に税を集めるために訪れたし、古の儀式にしたがって謎かけを住人たちにおこなうために不定期に来ることもあった。誰かが謎かけで負けることは―影たちの謎かけはいつも住人たちの階級にしたがって出される謎だったが―「影」がその人を食べて姿を消すことを意味した。全ての者が儀式の答えを知っていたし、答えを丸暗記していて、「影」が姿を現すときに立つふさわしい姿勢の高さ(訳注5)を知っていた。しかし人々が踊って、言葉を口にした上で火を熾すことがなければ、「影」は生きている者に危害を与える力を持っていなかったのである。

「影」に抵抗しようと思う者は、昼と夜の循環に抵抗しようとするのと同じく、存在しなかった。「十の愚かな攻撃」は「影」が常に勝つと言うことの十分なまでの教訓であった。そのため「影」と戦おうとする者はいなかった。

しかし、「狩人の氏族」は歩き回る「影」に忍び寄るのを愛し、自分たちが透明で目に見えない者であると見なしていた。―この考えが彼らの魔術の出発点であった。自然な影とまだらな光の交じり合うところに入り込み、人を見分けるのに光もしくは暗黒に頼る者には誰にも見えない存在でいたのであった(訳注6)。そのため、「狩人」氏族のみが「影」の後をつけることができたし、後をつけるのを楽しみのために行ったのである。

ある日のこと、ヘンドリックが「曲がる風Twisting Wind」に入信してから二年目(392年ごろ)、ヘンドリックは皆の者が「大声で騒ぐ影」と呼ぶ「影」の後をつけることを望んだ。ヘンドリックの母は「行ってはいけない」と警告したし、ヘンドリックの狩猟隊の長も「行ってはいけない」と言い、ヘンドリックの恋人も「行ってはいけない」と言った。しかしヘンドリックの魂がそうするように促したので、ヘンドリックは行った。

しかし彼らは影たちに捕らえられ、ウズの王の前に連れて行かれた。ウズの王は足のついた化け物じみた口だった。小さなトロウルどもが群れをなしてこの怪物にたかり、虫やカビの生えたのをつまんで口に入れていた。二十人の武装した戦士たちが周りに立っていて、百もの飢えた見物するものがいた。我々がその数を知っているのはヘンドリックがそこにいた時に数えたからである。

ボグ・バルはヘンドリックに横たわるように命じた。しかしヘンドリックはすでに横たわっていた。そのためトロウルの王は彼の上に立ち、ヘンドリックを泥の中に押し込んだ。しかしヘンドリックの中には偉大な風があり、息をする必要がなかったのである。

「息をする必要はない」(訳注7)

この言葉は典型的なオーランス人の名乗りの呼びかけである。

オーランス人は五つの魂を持っている―それぞれのエレメントに対してひとつずつ。これらの魂はそれぞれが同じ力を持っているわけではないし、その配分で個人の人格や、肉体や、魔術や、感情が決まる。「息」の魂こそが最強でありもっとも重要なのである。「息の魂」は人々が特定の神や魔物と絆を結ぶことで強める魂である。息が大地の魂から離れるとき、大地の魂は死ぬ。「息」こそ「生命」なのである。

人はヘンドリックが大気から全く隔てられていたのに息をする必要はなかったと言う。なぜならヘンドリックの大気の魂が強大だったからである。私はこういうのを聞いた。「ヘンドリックは身体の中にオーランスを持っていた。」

しかし私が注目したのはオーランス人の多くが自分の中にお気に入りの魔物を持っているのに、溺れたり窒息死したりするところを見てきたことである。


「お前は古代の法を犯した。お前は七つに引き裂かれ食べられる。」トロウルの王は言った。

「カイガーとリートールの力と、ロアとラカの名においてそうなるであろう。」

このときヘンドリックの魂が話した。「しかしそれは法ではない。お前の気まぐれに過ぎない。」

そして二十人の戦士たちは凍りついて動かなかった。

「お前はまず私を捕まえなければならない。そしてお前にはそれはできないだろう。」

「こいつはラーンステイの民(訳注8)だ。」トロウルの王は言った。

そして「夏と冬のフクロウ」(訳注9)が二十人の戦士を解き放ち、動くことができるようにしたが、彼らは動かなかった。

ヘンドリックは捕まえられた野原に戻り、「影」は行ってしまっていた。そのためヘンドリックの命は助かった。そしてヘンドリックは自分の氏族にこの話をして、自分と同じように逃げ出せるようにした。それ以来、「狩人」たちは「大いなる口」が包み込む暗黒と意味のない段取りでヘンドリックを捕らえたことを知り、二度とそういうことが起こらないことを知ったのである。

[つづく]

訳注1:Shadows、おそらく人と混じり合って第三期のキトリ族が生まれた
訳注2:Ten Sacrifices、闇に対して古来の約定に応じて供え物をする。七つの聖所の場所はセン・センレネンの地図に記載されている。デッコの裂け目に三回捧げているのは最も重要なゆえんか
訳注3:ニンフのことか
訳注4:一なる老翁、もしくはエズカンケッコEzkankekko。(エスロリア人はキマントールKimantorと呼ぶ)ここで訳者が注目したのは「夜」「母」が同一視されていること
訳注5:トロウルの慣習。身分が上の者ほど直立することが許され、奴隷やトロウルキンは腹ばうことしか許されない
訳注6:人の視力にもトロウルの「闇の目」にもとらえられないということか
訳注7:Didn't need Breath
訳注8:ヘンドリックはラーンステイ団Larnstingの創始者である
訳注9:Summerwinter Owl。ヘンドリックはこの種の鳥と(血縁関係がないにもかかわらず)よく関連付けられる。後述

Excerpt from Greg Stafford's "Durengard Scroll" in History of Heortling Peoples