ヴァデル人とザブールの戦争

ヴァデル人とザブールの戦争

以下はTradetalk #13に掲載されたPeter Metcalfeの記事の抄訳です。Peter独自のアイデアもありますが、ほぼRevealed Mythlogiesに記述されたマルキオン教徒の神代の出来事に則って記述されています。

下記の文章のうち、「」内はほぼ全てのマルキオン教徒によく知られている出来事の概要。付随する文章は出来事の詳細です。


「マルキオンは世界を探検させるため、ヴァデル人の祖先を創造した。」

 マルキオン教の歴史家は広範にヴァデル人の犯した罪について記録していて、ここでそれを繰り返す必要はほとんどない。下記はなにが一般に知られていて、なにが知られていないかについての要約である。

・モスタリの発見
ヴァデル人の祖先はドワーフ族を発見し、自分たちが欺かれることもあるということも発見した。」


「磁力の山(訳注:Pipavotoor。今日のクルストゥス・ジルステラ)」に住んでいたモスタリの発見による衝撃は深遠なものであった。なぜなら「論理の国」の外に存在するものを明らかにしたからである。ザブールは後に「法の宇宙」の中にモスタリの居場所を見出したが、動揺したヴィーモルン族は「法」の普遍性に対してはるかに信頼をなくしていた。

・ザブールとの抗争
「ザブールが「論理の国」の観察に基づいた法を発表したとき、ヴァデル人の始祖たちはザブールの高圧的な態度に反抗した。」


ヴァデル人の始祖たちとザブールとの間の抗争はマルキオンの民の最古の分裂であり、マルキオンとザブールの間の「大断絶」に先立つ。ヴィーモルン人がザブールの布告に怒ったのは、ウェアタグ人やカチャスト人、ザブールに従うエンロヴァリン人に比べてヴィーモルン人にははるかに小さな権限しか許されなかったからである。この時代の終わりには、ヴィーモルン人は影が薄くなり、他の論理の民が勢力と特権を増した。

ヴァデルはザブールこそ「顕現した誤ち」であると非難した最初のヴィーモルン人だった。ザブールがそのように堕落したからこそ、ヴィーモルン人は正当にモスタリを発見した時代に行ったザブールの判定に疑義を唱えたのだとヴァデルは言い立てた。

報復のため、ザブールは自らにしたがう民に報酬を与え、宣言でもってヴィーモルン人を処罰したのだ。ヴァデルの議論は説得力があり、ヴィーモルン人はザブールの布告に逆らって海や、魔術やジェナーテラ大陸西海岸を探検した。激しい非難にもかかわらず、マルキオンはヴィーモルン人を有罪としなかった。

・チールの帝国
「始祖ヴァデルは「論理の国」の境界を越えてパマールテラに向かい、チールの帝国を建国した。ヴァデルの利己的な行動は「死」をマルキオンの民に解き放った。」


ヴァデルはそれまでは「論理の国」の中に留まってはいたが、それでは十分ではないと心に決めた。ヴァデルの神聖な目的は全てを探検することであり、単に「法」のある一部に留まらないからであった。ヴァデルが「法の境界」を越えた瞬間に、「反逆の時代」が始まった。

パマールテラはその時代「精霊の国」であった。最古の時代、パマールテラ人は「死」を見つけて自分たちの一部とした。ヴァデルが境界を越えた時に、ヴァデルは「死」が「論理の国」に入り込むのを許したのである。ヴァデル人は死の到来に対する自分たちの役割に自責の念を持たない。

 なぜなら他の全ての「論理の民」が自分たちなりのやり方で「論理の国」に災難をもたらしたからである。−ウェアタグ人は「洪水」をもたらしたし、カチャスト人は「過ちの神々」を作り出した。ヴァデル人が異なるところは、自分たちが何をもたらしたか否定しないというところである。

ヴァデル人は死に対して憂慮することはなかったが、当時彼らはチールの地の不思議を楽しんでいた。他のマルキオン教徒はチールの非論理的な性質に困惑し、それを理解しようとする努力で当時の最良の知性が破滅した。

 マルキオンは早くに犠牲となった−最初マルキオンは不毛な不死性こそが最良のものであることを証明する、「今ここにあるものの啓示Revalations of Now」を公表したが、後にそれを捨てると宣言した。

マルキオンの非合理性に直面して、ザブールはマルキオンの権威を奪い、「論理の城砦」に預言者を閉じ込めた。

・タデニット戦争
「タデニットの民は書記の民であった。警告もなく、タデニットの民が「予兆」を理解することはできなかったため、ヴァデル人はタデニットの民を攻撃し、滅ぼした。これがマルキオンの民がマルキオンの民と戦った最初の例であった。」


タデニット人は献身的な「今ここにあるものの啓示」の信奉者だった。タデニット人にこの啓示が偽りであることを証明するために、ヴァデル人は「死」が解放であることを教えるためタデニット人を攻撃した。

タデニット人はヴァデル人の真実を認めるよりは抵抗する道を選んだ。タデニット戦争によって大規模なタデニットの論争が起こった。タデニット人を援護する道徳的な義務は、仲間の「論理の民」と戦ってはならないとする禁令よりも強いかどうかについて他の「論理の民」が論争したのである。その痛切な論議は「遵法戦争Lawful Warの教義」の発展に役割を果たした。

・陸の隆起
「ウェアタグ人はタデニット戦争をタデニット人とヴァデル人の境界を水没させることで終わらせて、新しく生まれた海を自分たちの船でパトロールした。ヴァデル人はモスタリに、陸の隆起によってこれらの海を干上がらせるようそそのかすことで反撃した。


タデニットの論争の結果、ウェアタグ人がタデニット戦争に介入した。ウェアタグ人は単にヴァデル人とタデニット人の土地を孤立させる以上のことをやった。ヴァデル人をモスタリの同盟者やチールのヴァデル人帝国から切り離したのである。ヴァデル人の船のいかなる建造も禁じることで、ウェアタグ人はヴァデル人がさらに騒動を起こすことを妨げようとしたのであった。

ヴァデル人は懲りずに古ヴィーモルンの地とモスタリが住んでいた「磁力の山」をつなぐ壮大な橋を架けた。奪ったタデニット人の魂を元手に「磁力の山」のモスタリを買収し、陸の隆起を行うようそそのかした。このことでヴァデルの領土は再結合され、タデニット戦争の継続が認められた。

・カチャスト戦争
「ヴァデル人の悪に辟易して、ザブールとカチャスト人、ウェアタグ人はヴァデル人に対して宣戦布告した。ザブールは強力な魔術を発動してヴァデリの地から一切の魔力を奪った。ウェアタグ人はヴァデル人の軍を海岸地帯から一掃し、カチャスト人がヴァデル人を征服した。」


 ヴァデル人によるタデニット人の征服が終わると、ザブールとその同盟する民はヴァデル人の幾度も犯した過ちに懲罰を与えるため、「遵法戦争」を布告した。ザブールの強大な魔術は「破滅の呪文」であった。

この呪文はヴァデル人の「上方世界」とのつながりを断ち切って、いかなる魔術をもヴァデル人が行うことを妨げた。虜囚となっていたマルキオンからの非難に反論して、ヴァデル人が自分の与えた魔道の贈り物を悪用したと言ってザブールは過激な手段を根本的に正当化した。

「ヴァデル人はカチャスト人に降伏し、カチャスト人は多数のヴァデル人を他のヴァデル人の良い振る舞いのために人質とした。ある日、ヴァデル人の人質が悪い扱いに抗議して自害した。

カチャスト人は死んだヴァデル人を安全の誓いの元に蘇生させた。突然、モスタリが山脈をまるごとカチャスト人の領土に隆起させ、カチャストの都市の大部分を破壊した。蘇生したヴァデル人とモスタリはザブールとウェアタグ人が解放するまで、生き残ったカチャスト人を捕虜にしていた。」


 ヴァデル人の人質の自殺と続く蘇生はヴァデル人の失われた魔力をいくぶん回復するのに必要だった。ヴァデル人は秘かにモスタリと契約を結び、自分たちの魂がカチャスト人に蘇生される前に、「地獄の機械」に吸い込まれるようにしていた。計画通り、ヴァデル人の魂は地界のエネルギーの中にしっかりと固定され、蘇生された人質たちが「不法」な魔力を引き出してモスタリがカチャスト人を捕らえるのを援助することを可能にしたのである。

 その後、人質たちはヴァデル人の地に向かい、同族たちを自由にした。しかしヴァデル人はもはや「法の魔術」を使えなくなり、死者の国における人質たちの苦痛(訳注:traveil、travelの誤植の可能性)によってヴァデル人は「禁忌の世界」を垣間見たのであった。

カチャスト人の領土の荒廃は当時起こった「論理の国」の多くの災害のうちのひとつであった。ザブールとその同輩たちは破壊の状態を調査し、「論理の国」をゼレンデル共和国として再構築するよう命じた。海を支配するウェアタグ人のみがそこから部外者としていられるだけ力があり、マルキオンは自らの民をおとしめたことで非難され、ジェナーテラに追放された。

・ウェアタグ戦争
「今や解き放たれ、ヴァデル人はウェアタグ人と戦った。最初戦争はいくつかの「都市の船」が捕らえられ、奴隷とされるとともにうまくいっていた。全ての前兆は決定的な大海戦が起こることを示していたが、ヴァデル人は同盟者を裏切り、和を請うた。


 ひとたび「禁忌の世界」を知って、ヴァデル人は自らの国をエンデルネフの帝国に再編成し、来るべき時代に備えた。ヴァデル人たちは準備が完成すると、古来からの戦争を再開した。最初の敵はゼレンデルの周囲の海を支配するウェアタグ人だった。二種類の船乗りの民(訳注:HeleringとBantheing)の援助を受けて、ウェアタグ人の破滅はすぐそこに迫っていた。
 
 しかしヴァデル人はマルキオンから平和を求める必死の願いを受け入れた。マルキオンの願いはほとんどすぐに拒絶されるかのようだったが、マルキオンの民がなにを提案されたか気づいたときに、始祖ヴァデルが提督たちを強制的に従えて、マルキオンの願いを聞き入れることにした。

善意の証として、ヴァデル人は自前の海軍を解体し、同盟していた船乗りの民は裏切られてエンデレネフとゼレンデルの間にあったセンバンス海峡で虐殺された。しかしヴァデル人は裏切った同盟者の魂を捕らえて燃やし、センバンス海峡を干上がらせる大地の隆起に用いた。いまやヴァデル人にはゼレンデルに侵攻する海軍は必要なかったので、共和国の領主たちはひどく憂慮した。しかし「マルキオンの平和」はしっかりと保たれた。

・マルキオンの死
「マルキオンは「第五の御業Fifth Action」の意味をマルキオンの子らに見せることを誓った。来るべき時代のため世界を再編成する呪文の最中に、マルキオンと呪文の援助を行っていた者たちは姿を消した。」


 失踪した者たちの中には、ヴァデル人やマルキオン教徒、モスタリの最も偉大な者が含まれていた。ザブールのみ生き残ったが、それはザブールがヴァデルがいることに抗議して参加しなかったからである。後に多くの者がなぜ失敗したのか尋ねた。

ザブールはマルキオンの死が彼の狂気による不可避の結果であると言ったが、マルキオンの信者は時を経て世界を救うためのマルキオンの自己犠牲と解釈するようになった。ヴァデル人はマルキオンが自分の死を意図していて、宇宙がその創造主とともに死ぬことを選ばなかったときに過ちを犯したと信じた。

「宇宙の拒絶」は二つの「混沌の群れ」を生み出した。「物質のデーモン」たちと「エントロピーのカージョールクの眷属」だった。提督たちの指導の下に、生き残ったヴァデル人たちはこれらの存在と同盟し、「宇宙」の死を助けようとした。

・二つの好戦的襲来
「ヴァデル人はモスタリとその他の非人間種族と同盟して、ゼレンデル共和国を滅ぼす最終戦争に挑もうとした。ヴァデル人はゼレンデルを侵略し、首都のタラーウォルを占拠した。」


 ザブールの指導の下に、ゼレンデル共和国は大変動を多少の被害とともに生き延びた。始祖ヴァデルは永久に失踪し、ザブールの魔術は容易に二つの「混沌の群れ」を撃退してしまったので、提督たちは新たな同盟者を探した。ヴァデル人の探索者たちは「北方の凍結の神」ヴァリンドを新たな同盟者の候補にした。「共和国」の魔術の弱点をヴァリンドに教え、提督たちはヴァリンドが「大氷河」となるよう導いた。

予測されたとおり、「共和国」は南方からのヴァデル人と北方からの氷河の攻撃で崩壊した。しかしヴァデル人の軍勢が陥落したタラーウォルの大都市に殺到すると、提督たちはザブールが見つからないことに気づいた。

・大いなる爆撃
「ザブールは「大いなる爆撃Great Blast」と自ら呼んだ恐るべき呪文をヴァデル人に対して投射した。大地そのものが振動し、崩壊して山岳の塊の下にヴァデル人の都市を埋めた。この巨大な波は国々を洗い流し、全ての者を沈めた。


 マルキオンの失踪を見て、ザブールはヴァデル人の背後にある「力」を見据え、自分が何に対抗しているか理解した。自分が時代とともに完成させてきた魔道がもはや十分でないと考えて、ザブールは自分をブリソスの安全な避難所に隠し、「宇宙」を守る強大なる呪文を準備した。

 ザブールは「共和国」が陥落したときですら、自分の最終呪文が働くことに確信するまで、この責務に動揺することはなかった。そしてザブールは「宇宙の大変動」を引き起こした。

 提督たちはみなザブールがなにをなしうるか良く知っていて、いかなる挫折からも身を守りうる避難場所を用意していた。しかしザブールのあまりの冷酷非情には無防備で、ザブールが宇宙を救うために「論理の国」を破壊した時には逃げることしかできなかった。

 ブリソスといくつかの他の地しか存続しなかった。これらの一部の地域にはヴァデル諸島も含まれていた。ザブールがなにがあったかをしのぶ教訓となるものを残しておきたいと願ったからである。しかしこれらの島の住民たちはあまりの衝撃的な敗北に狂気に陥り、フレストルのみ彼らを狂気から解き放つことができたのであった。