ヘンドリック王3(ハルマストとの出会い)

ヘンドリック王とハルマスト
ある時、ヘンドリックは若き日のハルマストと出会った[411ST]。その時は誰もハルマストのことを知らなかった。単なるケタエラに現れた、古代の力のルーンの刺青で覆われたよそ者に過ぎなかったのである。ハルマストこそが「ノチェットの沈黙」を起こした人物であり、彼は他にも名高い偉業を行ったが、もちろんハルマストは沈黙する雨に対して名乗りを上げることはできなかった(訳注1)。

ヘンドリックは古の王たちの刺青をまとう少年に出会った。しかしエスロリア人のようには恐れなかった(訳注2)。

「私には貴方が古の王たちの印をつけているのがわかる。」

「どの王たちのことでしょうか、飛翔の領主よ。」

「貴方の肩のところにある印のことだが、貴方はそれを誰から貰ったのだ。」

「神々が下さいました、わが君。神々があなたに授けたのと同じく真実のものです。」

「ならば貴方の氏族と、貴方の血統について述べよ」

「われこそはハルマスト、ハドリノールの息子であります。わが父は「ヴァナクの槍の」エリンガルフの息子です。エリンガルフは「火葬された詩人」であるブロララルフの息子です。ブロララルフは「ヴァナクの槍の」ラスタラルフの息子です。ラスタラルフはハラングの息子であり、ハラングは「牛と格闘する」ヴェステンの息子です。ヴェステンは「駿馬の」ヴェネフ王の息子であります(訳注3)。」

「ならば貴方の肩の印はベレネス部族のものに違いない。それは単に古の王の印のように見えるだけなのかもしれない。若者よ、なにで刺青を彫られた。歯か、象牙の筆か、青銅で尖らせた鷲の尾の羽か。」

「神々が知っておられる。私は憶えていません。私が覚えているのはビールが上等だったことだけです。」

「はは、よかろう、ベレネスの者よ。貴方は「氷のステッド」の老人たちを憶えているか。どのようにして彼らを目覚めさせるか、そしてかれらの肉を氷から融かすことができるか私に教えられるか(訳注4)。」

「いいえ、私にできるとは思えません。」

「それならば貴方が私たちにとってなんの役に立つのかな。貴方は剣を持っている。しかし貴方から輝く光は貴方が隠れるのを難しくするとおのずと語っている。うまく隠れようとするのなら、貴方は広大な都の穢れの中で隠れることが必要なようだ。そうではないか(訳注5)。」

「そのように言われました。しかしそうすることは他の種類の光か、なんらかのものを引き寄せたようです。」

「貴方は都でなにをやったのか。」

「若さの風に乗って男がやること以外のことはなにもしてはおりません。もし二十人もの女たちが男を求めなかったなら(訳注6)」

「二十人とな。」

「最初のひと月にです。」

「よかろう、今晩は夕餉のためにここに泊まるがよい。しかし我々は姿をあからさまにせず、隠れている必要があるのだ。貴方が知っているように、この家門のわたしの血を引かない者たちはみな、身を遠ざけることにおいて超人的だ。私は貴方が私たちについてこれるかどうかはわからない。しかしもし村人たちのひとりが貴方を迎え入れるのなら、貴方は後で二十人の女たちについて私たちに話せるだろう。」

最初のひと月。

ジャニリアという女がいた。そして彼女はハルマストを憎んでいた。ジャニリアはヘンドリックの妾妃のひとりであり、ある夜、寝床で泣いた。ヘンドリックがわけを訊くと、ジャニリアが語るには、自分はハルマストを知っている。ハルマストはヘンドリックを殺そうと考えていて、ヘンドリックの頭を「鉄のヴロク」に売り渡そうとしていると言った。ジャニリアは、自分が南方にいたとき、ハルマストはしばしば打ち明け話をしたと語り、その他にも多くの嘘をハルマストが語ったことや、目的としていることとして話した。そしてジャニリアは言った。

「私がこの男を知っている証拠として、刺青のある場所を見てください。そうしたら、貴方は「最初の夫婦」(訳注7)がそこに描かれているところを見るでしょう。誓います。」

次の日、ヘンドリックと彼の助言者たちはより厳しくハルマストに、彼の刺青と都の沈黙について尋問した。ハルマストは刺青についてなにも知らなかったし、沈黙がなぜ起こったのか判らなかった。彼らはさらにハルマストの刺青を調べた。そしてヘンドリックは「最初の夫婦」がジャニリアの言っていた場所に描かれているのを見た。そして風のルーンと、河と山も。ある者はハルマストが単に鈍いのか、頭を打っただけだと思ったし、その他の者はハルマストが他の多くの者たちと同じく戦争で魂の一部をなくして、衝撃を受けているだけだと思った。そこにいた刺青師は怯えて、こう語った。

「こんな刺青は私にはとてもできない。オーランス様自身か、ランカー・マイ様でなければ。」

「いつだって他の方法はあります。」その場にいた一番年老いた女性が言った。

「私たちはエスロリア人ではありません。刺青のこっけいなしるしだけで恐れることはありません(訳注8)。彼はあなたたちの一人です。多くのものと同じく放逐されてさまよってきました。彼を送り出しなさい。名誉と力を得るために。そして望むなら戻ってくることを」

次の日、ハルマストは召喚されてやって来た。ヘンドリックが驚いたことに、この若者は支持者の取り巻きを連れていた。その中にはヘンドリックに従う外国人の中で最善の者たちに含まれる、エンゴルンとホストがいた。彼らは二年の間、ヘンドリックとともに馬を駆っていた。

「この人たちは私の友人です。」ハルマストは言った。

「私は彼らと一緒に行くよう説得されました。」

「そして私たちについて言えば、」エンゴルンは言った。

「単に前住んでいた炎の罠の中に戻っていくだけの話です。もし貴方が取り囲まれるようなことがあるならば、私たちを召喚するため、角笛を吹き鳴らしてください。貴方のそばに駆けつけます。」

そして彼らは全員去った。

「貴方は古の王のしるしを身に負っている。」

オーランス人は「刺青する民」のひとつである。そしていろいろな理由のために自分に刺青を刻みつける。それぞれの家族と部族がいろいろな魔術の結社や異教の神と同じように独自の刺青を持っている。ハルマストは古代のウィンコティ(訳注9)の王と同じ刺青をしていて、そのことがハルマストにオーランスの民すべての統治権をしるしづけたのである。


訳注1:he couldn't boast of the silent rain. おそらく"Ten Women Well-loved"で起きた出来事
訳注2:エスロリア人はもとはヴィングコット族のコーディグヴァリ(Kodigvari)部族だったが、後にその伝統を捨て、忌避するようになった。詳しくはヴィングコットの子らのサガを参照
訳注3:ハルマストの名乗り。遠祖はベレネス部族のヴェネフ王。悲運の一族
訳注4:訳者には不明。(ただし訳者は"Harmast Saga"や"Ten Women Well-loved"を読んでいない)これらの描写はOrlanth is Dead!の描写を思い出させる
訳注5:"Ten Women Well-loved"の舞台であるノチェット。
訳注6:訳者には不明。しかし彼がニスキスの信者であったことを思うと…
訳注7:おそらくオーランスとアーナールダ。そして二神の深い結びつき。
訳注8:we do not fear this travesty of marking.
訳注9:Winkoti、マルキオン教徒の古文献でいうヴィングコット族のこと、「デュレンガルドの巻物」の記事は記録者(ジャドノールのヘレメル)の意見や感想がなにも明示されずに挿入されているので混乱する

Excerpt from Greg Stafford's "Durengard Scroll" in History of Heortling Peoples