カリーシュトゥの歴史

以下はTradetalk誌14号 p.27〜28のPeter Metcalfe、Martin Hawleyのカリーシュトゥの記事(「法官が私に言わせたことWhat the Lawgiver made me say」)の一部の抄訳です。訳の間違いの責任はzebにあります。非公式の部分もあると思いますが、パマールテラ全体の把握には非常に役立つかと。

まりおん殿が以前ほかの一部を翻訳しました。
カリーシュトゥの黄金帝国(1)
http://d.hatena.ne.jp/mallion/20050328/1112016253
カリーシュトゥの黄金帝国(2)
http://d.hatena.ne.jp/mallion/20050331/1112276943
カリーシュトゥの黄金帝国(3)
http://d.hatena.ne.jp/mallion/20050401/1112361788
以下はこの翻訳記事の未掲載の歴史の部分でカリーシュトゥの民の世界観を伝えているものです。いくつかPeter Metcalfe氏、Martin Hawley氏の仮説は含まれていますが、すべてMissing LandsやGods of Gloranthaの同地についての記述に基づいています。また、下記の設定は(微妙な話ですが)Mongoose RuneQuest 2のCults of Gloranthaで一部採用されています。

カリーシュトゥの歴史
我々の統一は「偉大なる帰還」よりはじまる。ガランゴードスに率いられて、我々の祖先はジャングルの妖魔どもを皆殺しにして、青肌どもを奴隷にした。地獄のようなジャングルを一掃し、邪悪なユーラクタル(訳注1)の冒涜的な神殿を破壊したのである。我々の祖先はこれらすべての偉業とそれ以上のことを「宇宙のピラミッド(訳注2)」の再生のためにおこなったのだ。

しかし祖先たちの計画はガランゴードスが卑怯にも殺害されたときに頓挫してしまった。彼の指導なしには、われらの祖先だけが「偉大なる帰還」の理念に忠実であり、ほかの全ての者は互いに争い、われらの祖先と争った。自分たちを守るために、我々の祖先はカリーシュトゥの統一を宣言した。当時は今日と違って、グヤ諸島(訳注3)は本土から離れていなかった。

「宇宙のピラミッド」の再建はひどく遅れることになったが、その建造は世界中に影響を及ぼした。多くの背教者や妖魔どもがピラミッドの支配権を奪い取って自分の支配下とし、世界を支配する邪悪な企みをおこなった。しかし彼らの企みは失敗を運命付けられている。「宇宙のピラミッド」はオンパロムへの隷属なしには存在しないからである。

背教者どもの最初の波は「神知者」であった。北方から彼らは来て、オーヴィル(訳注4)、かつての彼らの帝国があったところを拠点とした(太陽暦654年)。その地から「神知者」たちは商人やスパイを派遣してきた。当時我々は強力で、彼らに対して敢えて戦いを挑もうとはしなかった。

背教者の第二の波は南方から来た。彼らはガランゴードスと死者の国で話して、ピラミッドの秘密を学んだ邪悪な妖術師たちだった。妖術師たちは穴を掘ってマラナ高地に姿を現した。そして邪悪なカラバーの都(太陽暦690年 訳注5)を建てた。その地で妖術師たちはマラナ人たちを恐怖で呪縛して、我々が服従しないことがわかると我々に戦いを挑んだ。

東方からジャングルの妖魔たちがエルフの提督エリノールに率いられて、いかだに乗って侵攻してきた(太陽暦734年)。彼らはフォンリットにジャングルを再び作ろうと試みた。我々はエリノールが最終的に敗北のうちに撤退するまで、長いこと懸命に戦った。しかし我々の最悪の恐れは我々が弱っているときに、「神知者」やカラバーが襲ってくることであった。

「神知者」の脅威は自分のずる賢さで自分の首を絞めることで小さくなった。何もかもを知ろうとして、「神知者」たちは気づかないうちにオンパロムの栄光を目の当たりにした。「神知者」たちは我々の道に魅惑され、我々のようになろうとした。彼らの遠く離れたところにいる王ですら我々から学ぼうとして、我々の国に学者の船を派遣した。(太陽暦770年 訳注6)

カラバーの脅威は小さくならなかった。マラナ全土を恐怖で統一し、彼らは自分たちの神々を奴隷にしようとした。そうすることで、彼らの冒涜的な、「妖魔のピラミッド」を建てようとする意図が明らかになった。我々は衝撃を受けたが、「神知者」も同じであった。我々はカラバーを滅ぼすための共通の目的を持った。(太陽暦846年)しかしカラバーはあまりにも狡猾であり、大いなる策略や強大な妖術師たちが我々の軍勢に長いこと抵抗したのであった。

大いなる打撃はカラバーが「神知者」たちを内戦に陥るよう呪いをかけたことであった(太陽暦901年 訳注7)。「神知者」たちはもはや船を送ってこようとはせず、我々は孤立してカラバーに対抗することになった。我々の権力者たちは相談しあって、カラバーを滅ぼすことより、カリーシュトゥを守ることを決めた。すぐに我々の予見者たちは、カラバーがヨーティマム(訳注8)を自分たちのピラミッドに呪縛したことを明らかにした。大津波がはるか北方で発生し、我々の土地を襲おうとしていた。

津波が襲ってきたとき(太陽暦942年)犠牲者の数は酷かった。北部の低地は洪水に見舞われ、グヤ諸島となった。巨大な「水柱」が海峡に生まれ、島の住民は本土や互いと連絡が取れなかった(太陽暦943年)。河川ははるか上流まで逆流し、村を水没させ、堤防を破壊し、海の妖魔どもを吐き出した(太陽暦944年)。しかし我々は長いこと備えていたので、海を押し戻し、カラバーからの無慈悲な侵略の裏をかくことができた。まもなく両方の敵が疲弊して撤退(太陽暦955年)したが、海洋はいまや閉ざされていた。毎年我々は水没した都市を悼み、海に裏切りの報いを受けさせねばならないと新たに誓うのである。

我々にさらに危害を与えるべく、カラバーは妖魔の奴隷たちをさらに送ってきた。我々のオンパロムへの服従のため、カラバーは我々の神々を奴隷とすることはできなかったが、大いなる東のジャングルを卑怯な方法で滅ぼし(太陽暦975年 訳注9)、その一方でオーヴィル(太陽暦1020年 訳注10)やバナンバ海岸(太陽暦1077年 訳注11)の「神知者」たちはカラバーの呪いの犠牲になった。ヨーティマムの眷属は新しい攻撃に移り、「烏賊の週」のとき(太陽暦1112年)は大きな被害があった。しかし我々のカラバーへの敵対はすぐに代償を伴うことになった。もはや我々に守る力がなかったため、多くの都市が襲われ、火をかけられた。そのほかの都市も重い貢物を課せられるか、降伏すらする羽目に陥った。軍事的な団結が滅びると、カリーシュトゥはカラバーの軍勢にさらされることになったのである。

しかし力の頂点にあって、カラバーは転落した。あまりにも多くの神々を捕らえていたため、それらの犠牲となった者たちの監視ができなかったのである。カラバーの軍が我々の都市を包囲している間に、「炎の王」セセコはピグミー族(訳注12)や、サバンナの蛮族たち(訳注13)や、ジェルマー(訳注14)やエグザイジャー(訳注15)、その他の我々がほとんど注意を払わない者たちの寄せ集めの軍勢を召集したのであった。セセコは邪悪な都市を地面にいたるまで破壊し、その軍勢は廃墟を占領した(太陽暦1136年)。

カラバーの破壊はその残骸のなかに多くの黙想を生み出した。古代の団結は「大津波」か戦いの中で押し流されてしまった。「宇宙ピラミッド」に対する業績は浪費されてしまった。さらに悪いことに、ピラミッドの秘密は喪われて、新しく始めることもできなかった。我々の多くは霊感と新しいものを他の地に求めることもあった。それらのうち主となるのはサクムの地(訳注16)を訪れた「純粋なる者たち」であった。

「純粋なる者たち」はカテレ市を建設し(太陽暦1202年)、他の民を転向させようとした。我々の多くは転向を拒否したが、それは彼らの教義が水と女性の拒絶を含んでいたからである。怒り狂って「純粋なる者たち」は自分たちの教義を力で強制しようとした。これは「女の反乱」につながり、多くの苦難をもたらした。「純粋なる者たち」を戦場で打ち負かすことはできなかったが、争いは彼らの人数と、信仰と戦いに対する熱意を大いに奪った。最終的には彼らは隣人たちに平和を申し出て、オンパロムへの隷属へと戻っていった。しかし「統一」の復興と「宇宙ピラミッド」の再生は記憶も定かでない夢に留まっていた。

「沈黙に対する戦争」が遠方のヴラーロスを荒れ狂っていたが、我々は平和であった。その一方で「妖魔の時代(訳注17)」以来最大の妖魔、禁忌の存在イラン(訳注18)が天に昇った(太陽暦1247年)。多くの者が警戒したが、この国は平安であった。なぜならイランは遠く離れたところにあったからである。我々の安全に対する幻想は荒っぽく打ち砕かれた。赤いローブをまとった「イラニアの跳躍者たち」がマラナの山々から出てきて、カリーシュトゥを脅かしたからである(太陽暦1320年)多くの都市が青の民が反乱を起こし、「跳躍者たち」が簡単に都市の城壁を飛び越える事態に貢ぎ物をおこなった。しかしそういったことが行われるうちに、「跳躍者たち」はあたかも一度もいなかったかのように姿を消してしまった(太陽暦1331年)。

「跳躍者たち」は邪悪だったが、彼らの目覚めはひとつの祝福を生むことになった−「統一」の回復である。「跳躍者」に怒ったトゥルブルス(訳注19)のアルチドミデスは「跳躍者たち」から逃れてきた魔術師たちから成立する神秘的な一団であるトンドと一緒に身を隠すことになった。トンドたちの魔術の中に(トンドたちはそのことを知らなかったのだが)アルチドミデスは喪われた「ピラミッド」の秘密を見出した。アルチドミデスは苦痛に満ちた決断を行い、古の忠誠を捨ててトンドのひとりとなり、トンドたちを転向させて「宇宙のピラミッド」を再建する義務に向かわせたのであった。

統一の再構築は長く緩慢なものであった。トンドたちがピラミッドの頭石である、「大いなる水晶の目(訳注20)」を新たな都であるトンディジに置くのには長い時間がかかり、ピラミッドに最初にアーナモラ(訳注21)を加えるにはさらに時間がかかった。ピラミッドにさらに加えていくのは長年の忍耐強い外交と、策略と地固めを要したのであった。

ある日のこと、新たな敵が台頭してトンドたちに対抗した。アーファジャーンである。(太陽暦1518年 訳注22)ジャーンたちは「宇宙のピラミッド」に何の関心も払わなかったが、独自の秘密を持っていた。

残念なことに、彼らは自分達の秘密を悪用して享楽のために用いた。こうなるのはジャーン達の祖先がイラニア人と踊り、カラバーに屈服していたことから当然予測しうることであった。

彼らがヴァデル人―大洋に最近姿を現した邪悪な妖術師達(太陽暦1585年)と仲間になったことも我々にとっては驚くことではなかった。ヴァデル人の助けを借りて、ジャーンの軍は速やかに我々の領土を蹂躙した。

トンド達は抵抗しようとしなかったが、それはピラミッドを妥協したものにしたくなかったからである。

トンド達の提携は怨みを生んだが、我々の先見の明は、ヴァデル人達が残虐に自分達の貪欲にたいする反乱を滅ぼしたこと(太陽暦1589年)で、またカリーシュトゥに対するヴァデル人の枷が一連の今でも信じがたいような劇的な敗北(太陽暦1594年 訳注23)で消え去ったことで裏付けられたのであった。

ヴァデル人が撤退すると、トンド達は静かに次にピラミッドに加えるための準備を再開した。ディンダンコの都は付近の沿岸を征服するための大艦隊を建設していたので騒がしかった。ティノコスやタラホルン、バナンバの沿岸はすぐに我々の艦隊の前に陥落したが、艦隊によって最後に征服したクマンク諸島はヴァデル人と対決し、原住民の敵対もあって長い時間がかかった。(太陽暦1602年)

アーファジャーンを「青の帝国」(訳注24)に併合しようとする試みはわびしくも失敗したが、それは新たなジャーン(訳注25)が約定を破ったからである(太陽暦1613年)。提督たちは沿岸地域への冒険の熱情をこの失敗で喪い、今ではその力を海の勢力に処罰を与えることに注いでいる。

我々の統一は我々に危害を加えようとする多くの侵略者たちを見てきた−「神知者」たち、ジャングル、海、カラバー、イラニア人たちとヴァデル人。すべてを撃退し、多くの者がそのために苦しんだ。我々の統一はいまや偉大さの頂点にあり、トンドたちの指導の下に、陸と海で無敵である。我々は宇宙ピラミッドの確立と、全世界をオンパロムの意志の元に戻すのをを目前にしているのである。


訳注1:Jraktal。Lords of Terrorによると、神代にパマールテラに侵攻した混沌の神。Peter Metcalfe氏の説によると南方のパマールトの「炎の降臨Firefall(Revealed Mythologies)」の影響を受けず、第一期もその信徒の文明がフォンリットに生き残っていた。
訳注2:Cosmic Pyramid。Peter Metcalfe氏によるとOmpalamを頂点とする魔術的、神秘的な階層構造がTentaculeであり、その信仰がカリーシュトゥの国教であり、トンド達(カリーシュトゥの魔術師の階級)の支配下にある。
訳注3:Guyan Islands。 Peter Metcalfe氏によるとカリーシュトゥ島嶼部のドゥサングヤ島(Dsunguya Island) 、ムルジャグヤ島(Murdjahguya Island) 、ヌジェナグヤ島(Njenaguya Island)の主要三島の総称
訳注4:Oabil。アギモリ神話でのパマールテラ西部(おそらくウーマセラ)のヴァデル人(論理の民)の国。マルキオン教徒の神話ではチール(Chir)と呼ばれる。この単語をPeter Metcalfe氏は神知者の帝国のために使っている。
訳注5:Kalabar。フォンリットの地誌の記事を参照のこと。Peter Metcalfe氏はKalabarの妖術師たちが大閉鎖とエリノール一族の滅亡の一因であるという説を立て、さらに彼らの魔術がTondたちの魔術と似ていることをほのめかしている。
訳注6:(訳者が把握している限りでは)マルキオン教徒の歴史年表に特にこの出来事の記述はない。
訳注7:パマールテラの公式歴史年表によると、この年にウーマセラのヨーランデイで「誤ちの神々の反乱」が起こっている。
訳注8:Jotimam。Lords of Terrorによると、この混沌の神はスパイクが爆発した後生まれた、宇宙と海の中心の虚空である。Tales of the Reaching Moon5号ではフマクトによって殺されたことになっている。Missing Landsの魚人の神話では類似の敵がデズ(Dez)と呼ばれており、マガスタに殺された。
訳注9:botched attempt。疫病でエリノールの一族は滅びた。
訳注10:世界知識の主(Lord of World Knowledge)の敗北
訳注11:アートマル人の「不可視の艦隊」が神知者の艦隊を沈めた。(原因はデュマナバが神知者艦隊の避難を受け入れなかったため)
訳注12:エリノール密林に住む小人(人間)の種族。詳しくはMissing Landsを参照
訳注13:おそらくジョラーにすむアギモリ人
訳注14:Jelmre。古の種族のひとつ。感情を用いる魔術を使用する。グローランサ古の秘密:古の種族の書(Elder Secrets of Glorantha:Elder Races Book)参照
訳注15:Exiger。マリ山脈に住む獰猛な戦士(人間)の一族。詳しくはMissing Landsのジョラーの章を参照
訳注16:Sakum。パマールテラ最南、ナーガン砂漠を越えたところにある伝説の炎の地。アギモリの祖先はこの地で不老不死だが子供を持たないアギトラーニ(Agitorani)と子供を作るために分かれ、不老不死を失ったと言われる。詳しくはRevealed Mythologiesを参照のこと
訳注17:Demon Period。パマールテラ神話で言う大暗黒のこと。
訳注18:赤の月の昇天。第0ウェイン27年。
訳注19:Tulbulus。拷問と苦痛の都。Peter Metcalfe氏によると第三期のカリーシュトゥの再統一時に最初に傘下に入った都市らしい。Missing Landsには記載なし。
訳注20:Great Crystal Eye。Tantaculeの本体か。
訳注21:Ernamola。グローランサの神々によるとフォンリットの穀物の女神でキビ(Millet)を司る。
訳注22:公式年表によるとこの年に輪縄のダーリスターがジャーンに信仰されるようになった。
訳注23:オエンリコ岩礁の戦いはカリーシュトゥの島嶼部沖で戦われた。
訳注24:Peter Metcalfe氏の非公式設定によると、カリーシュトゥの制海圏の中だがピラミッドに土着の神々が組み込まれていない地域をこのように呼ぶ。
訳注25:アスタマニクスのこと。